このままの二人



だけど、先を越されるのはやっぱり悔しい。
男としての自尊心を振りかざすことなど出来ないが、趙雲の目を見ていると、想いを伝えたいという気持ちばかりが大きくなる。
意を決して口を開こうとすると、悠生の意図を悟った趙雲が、再び口付けで言葉を奪った。
何もかも吹っ切れたかのように、会えなかった日々の虚しさを埋めようと、趙雲は熱を与え、悠生を翻弄させる。


「っ…は…」

「もう…過ちなどとは言うまい。これが私の本心だよ、悠生殿…」


ちゅっと、唇を軽く吸われ、悠生は今度こそ何も言えなくなる。
くすぐったく感じるキスをして、まるで無邪気な子供のように、趙雲は悪戯っぽく笑う。
また、趙雲のことを一つ知った。
これでは…もっと、好きになってしまいそうだ。


「私は悠生殿を愛しく思っている。きっと出会った頃から、貴方に惹かれていたのだ」

「っ…ずるい…趙雲どの…!僕だって、ずっと…!」


ずっと、好きだった。
ただ自分の想いに気が付かなかっただけで、憧れが恋に変わったのは、随分前のはずだ。
何も張り合うことは無いのだが、ついムキになって反論してしまった。
だが趙雲は冷静に、人差し指を立てて、あまり騒がないようにと指摘する。

遠くから、女性の声が聞こえた。
どうやら、いつまでも戻らない悠生を心配し、尚香が厩まで捜しに来たようなのだ。
「黄悠」と名を呼ぶ甲高い声が、はっきりと耳に届けられた。


「趙雲どの、尚香さまが…」

「…お預け、だな。だが、今はこれで十分だ。悠生殿から言葉を戴くのは、遠呂智を倒してからでも良いだろう」

「……!」


趙雲は満足げに微笑むと、何事も無かったかのように悠生を解放した。
触れられただけで、こんなにも熱くなってしまった。
真っ赤になった顔を尚香に見られては、要らぬ誤解を招いてしまいそうだ。


「実は私も、孫夫人に貴方の居場所を聞いて此処へ来たのだ。貴方が何か悩んでいるようだと聞いて…居ても立ってもいられなくなった。黄悠の名を、名乗ってくれたのだな…私が与えた名を…」

「はい…本当は、一番初めに阿斗に教えたかったんですけど…」

「ふ…構わないだろう。阿斗様も、許してくれるさ」


私達の関係をも、と思い出したように付け加えられては、流石に羞恥に耐えきれず、悠生は何も言えなくなる。
そんな微妙な雰囲気にある二人の姿を見た尚香は当然、首を傾げるも、悠生の恋の相手を悟ったかは定かではないが、微笑ましいわねと呟いた。



END

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