このままの二人



「どうして…ですか…?どうして、趙雲どのが謝るんですか?」

「独りで泣かせるところだった。…いや、私のせいだろうか。私はただ、貴方の傍に居たかったのに…すまない…」


再び、趙雲は謝罪の言葉を繰り返す。
その顔がよく見えなくて、切なげな声色ばかりが耳に響き、悠生は困惑した。
傍に居たかったなんて言われてしまうと、恥ずかしくて…何も言い返せなくなる。
趙雲のせいと言われれば間違いではないが、そんなことを伝えられるはずもない。


「悠生殿と顔を合わせたら、まず始めに何と言おうか、ずっと考えていたのだ。だが…上手くいかないものだな。情けない限りだ」

「趙雲どの……」

「私は、こうして悠生殿に会えたことが、嬉しくてたまらないのだよ。貴方が此処に居る…私の傍に。まだ、夢を見ているようだ」


僕も同じだよ、嬉しいんだよ…、喉元まで出掛かっている言葉が、どうしても音にならない。


「ありがとう…悠生殿…」

「っ……」

「貴方が生きてくれていることに、感謝をしたい。それが、私にとって一番の幸せなのだ」


ありがとう…、何よりも尊く優しい言葉を口にする趙雲は、穏やかな眼差しを向けていた。
悠生はかつて、生きることさえ退屈だった幼い頃、その言葉の意味を考えたことは無かった。
友達も居ない自分には、無関係だと思っていたから。

それなのに、趙雲は言ってくれた。
…生きていることに、感謝をしたいのだと。
その言葉の裏に、胸の内に秘められた、燃えるような愛情を感じさせるのだ。
最早否定しきれない、趙雲の想い。
彼の声が、言葉が…悠生の胸を熱くさせ、ぼろぼろと涙を流させる。


「趙雲どの……!僕、僕は…っ…」


悠生は溢れ出る涙を拭いもせず、趙雲に縋り付くようにして、彼の鎧に額を押し付けた。
趙雲は自然に悠生の髪を撫で、そっと抱き寄せる。
触れた鎧はひんやりと冷たいのに、趙雲の腕に抱かれた悠生の胸は高鳴り、頬は次第に熱を持っていく。
憧れでは、なかったのだ。
今にも溢れ出しそうなこの想いは、三成に指摘されて初めて知った切ない感情。
単純だけど、とても複雑な心。
気持ちが通じ合わなくたって良いから、最後に、勇気を出して伝えたいと思った。


 

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