このままの二人



「マサムネ…おかしいよね…大好きなのに…怖いなんてね…」


胸に秘めたこの想い、そして趙雲の想いも明確であるのに、何故今更、恐怖を覚えるのだろうか。
まさか引きこもりだった自分が、このような…恋という複雑かものに悩まされることになるなんて。
しかも、相手は同性で、手が届くはずのない人物で…この恋心の行き場など無いものだと思ってしまう。
これほど不安定な状態で咲良と対峙しても、余計な心配をかけるだけで、言いたいことの半分も伝えられないだろう。

悠生は瞳を閉じ、ごしごしと力任せに涙を拭った。
ほとんど色が変わらない暗闇の中で、静寂に近しい空間には、ずらりと並んだ馬が呼吸をしたり、鼻を鳴らす音だけが響く。
仕舞には感覚が狂い、どれほど時間が過ぎたのかも見当が付かないが、体はすっかり冷えていたので、もう随分と此処に座っているのだろう。
早く戻らなくては、尚香が心配する。
だが、趙雲と顔を合わせる勇気が無い。
恥ずかしさのあまり何も言えず、訝しがられるのが目に見えている。
悠生はうなだれ、顔を伏せるだけだった。


「ねえ、マサムネ…ずっと一緒に居てね。僕は"バグ"で…その僕の選ぶ道は、今までよりもずっと大変で、苦しいかもしれないけど…」


予期せぬバグによって改変されてしまった、これから綴られていく新しい未来のことは、バグである悠生にも分からないことだった。
ただ、遠呂智を眠らせたら、それで終わりという訳ではないはずだ。
きっと、悠生の旅は、まだまだ終わらない。
この戦いが終わったら一度、阿斗の傍を離れるつもりだ。
太公望や左慈なら、悠生の無謀な願いを聞き入れてくれるはずだから。

だけど、そのことは誰にも言えない。
この先に待ち受けるであろう敵を見つけ出していち早く倒したい…なんて、自分勝手にもほどがある。


「僕はこんな弱虫だけど、上手くいくか分からないけど…頑張るから…」


悲痛な想いを、ずきずきと痛む胸の内を吐露すれば、さらに涙が零れ落ちた。
きっと、マサムネは理解してくれる。
だが…阿斗は悠生の身勝手な行動を、受け入れてはくれないだろう。
そして、趙雲も。
適当な理由を付けて逃げようとしている悠生を、そう簡単に許すはずがない。


「マサムネ…ありがと。ちょっとは落ち着いたかも。尚香さまが心配するから、そろそろ戻るね」


悠生はマサムネの鬣を撫でてから、足元も見えない暗闇の中、柵を飛び越す。
マサムネは不安げな瞳を向けていたが、悠生はもう一度大丈夫だよと呟き、厩舎を後にした。


 

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