このままの二人



「では、私からも一つ伝えよう。兄上と周瑜が今夜にも此方に到着するが、蜀と手を結ぶことになったようなのだ」

「えっ、権兄さま、それって…!!」

「ああ。呉蜀同盟の復活も有り得よう。尚香、お前の幸せ、今度こそ叶えてやれる」


蜀の衰退の始まり…それは、樊城の戦いでの敗北がきっかけだった。
阿斗…劉禅が暗愚と呼ばれるようになったのも、経験も浅いままに即位させられたからである。
孫権の言葉は、用意されていたはずの蜀の真っ暗な未来に光を灯すものだった。

孫策は江戸城に、遠呂智軍と戦う蜀軍を救援するため援軍として赴いていたのだそうだ。
そこでも孫策は、誰とでも仲良くなれる才能を発揮し、あれほど緊張状態にあった呉蜀を再び結び付けた。


(じゃあ僕も、蜀に帰れるんだ…)


心から望んでいたはずなのだが、いまいち喜びを実感出来ていない自分に、悠生は首を傾げる。
両国の関係を良好に保ったまま、蜀に帰還出来るというのに、何が不満なのか。

孫権の話によると、蜀からの使者を連れ、孫呉との会談を実現させるという。
そして、力を合わせて遠呂智を倒す。
遠呂智が倒れたところで、落涙に笛を奏でさせ、全てを終わらせるのだ。


「蜀の皆に会えるなら、とても楽しみだわ!それで、使者には誰が来るの?」


尚香は孫権とよく似た明るい緑色の瞳を瞬かせ、兄の表情をうかがう。
蜀と再び手を取り合える…、同盟の決裂に最も苦しみ続けていた尚香だからこそ、その喜びは一塩なのだろう。
全身で喜びを表現する尚香の姿は無邪気で愛らしく、控える将達も自然と微笑んでいる。


「私もまさかとは思ったが、関羽が自ら出向くそうだ。それほど、蜀は本気と言うことだろう。そして、趙雲将軍と…張飛の娘・星彩が共に此方へ向かっていると聞いた」

「星彩が来るのね!?私、あの娘とは友達なの。きっと上手くやれると思うわ」


樊城に散った、関羽。
尚香と旧知の仲だという星彩。
そして…趙雲が、使者としてやって来る。


(趙雲どのが…此処に来るって…?)


孫策は彼らと、そして咲良を連れ、今日にも小牧山に到着する。
きっと孫策は、一人寂しい想いをしてきた悠生のために、すぐにでも咲良や趙雲と会わせようとするだろう。
そう思った途端、悠生は言いようの無い不安を感じた。
恐怖、とも形容できる感情であった。
咲良も、趙雲も…どちらも大好きな人なのに、顔を合わせたいとは思えないのだ。


 

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