このままの二人



趙雲へのこの想いが恋なのか、ただの憧れなのか、未だに悠生は思い悩んでいる。
いや、本当は気付いているはずなのだ、こんなにも、胸が張り裂けそうなほどに痛むのだから。
気付きたくなくて、知らないふりをしていただけのことで。

だが、やはりこの想いは、憧れと尊敬の念でしかないのではないかと、悠生はどうにか思い込もうとしている。
ひとつだけ、以前と異なるのは…趙雲のことを思うと、泣きたくなるぐらいに切なくなった。




見渡せば辺り一面に、美しい薄紫色の藤が咲いていた。
じっと眺めていると、微かに風が吹くだけでひらひらと花びらが舞うようにして散り、穏やかな雰囲気を感じ取れる。
この美しさが永遠のものであれば、どれほど良いか。

空が橙に染まる夕暮れの刻、呉軍の拠点となっている小牧山城に到着した一行は、城で彼らの帰りを待っていた孫堅や孫権に迎えられた。
悠生は捕虜ではなくなったはずだが、此処に知り合いと呼べる人は数少ない。
傷の治療をしてくれた尚香と稲姫だけは気兼ねなく接することが出来たものの、やはり彼女達も悠生の無謀を咎め、悲しそうな顔をした。

それもそのはず、悠生は全身、傷だらけなのだ。
腫れ上がった頬には布を貼り、遠呂智につけられた首の傷も、包帯は取り替えたが未だ塞がっては居ない。
右手にも白い包帯がぐるぐると巻かれ、その他にも擦り傷や切り傷が目立つ。
心優しいお姉さん達が顔をしかめるのも仕方がないことだった。

今も、悠生は尚香の傍に居たのだが、彼女は何の躊躇いも無く悠生を孫権達に引き合わせる。
明るく親しみやすい孫策とは違い、弟は生真面目で、厳格な雰囲気を併せ持っているのだ。
心の準備も出来無いまま、悠生は緊張に表情を強張らせた。


「尚香、よくぞ無事に戻ったな」

「ええ、ただいま!権兄さま…残念だけど、前田慶次は仲間に出来なかったわ。でも、黄悠を遠呂智軍から引き抜けたの!落涙が帰ったら、すぐにでも詩を伝えてもらいましょう?」

「まことか!黄悠殿、我が孫呉に力を貸してくれるのだな。これで我らの勝利も同然よ」


目を細め、孫権はたいそう嬉しそうに笑う。
仲間や妹の無事、そして彼女が伝えた朗報に喜ぶ、その微笑みはやはり孫策によく似ていて、悠生は少しだけ肩の力を抜くことが出来た。
だが、次に孫権が口にした一言に、悠生は耳を疑わずにはいられなかった。


 

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