月下の影法師



「い…っ!!」

「餓鬼め!よくもわしを狙いおったな!!」


次の衝撃に、悠生の軽い体はいとも簡単に地に突き倒される。
激昂した董卓に、思い切り頬を殴られたのだ。
口の中には濃い鉄の味が広がり、鼻血も溢れていた。
容赦ない攻撃に、悠生は目の前が眩み、高笑いしながら弓を扱う右手を踏みつける董卓の顔も判別出来なくなっていた。


「がははは!!思い出したぞ、貴様は裏切り者ではないか。この手を切り落とされても文句は言えぬな!!おっと、誰も近づくでないぞ。この餓鬼の命が惜しければな!!」


咲良を愛する周泰に、弟の悠生を見殺しに出来るはずが無く、半蔵も闇の中で、蝙蝠のように目を光らせるだけだった。
その子供に手を出したら殺す、と。
周泰と半蔵の恐ろしいほどの殺気が、董卓軍の兵を抑制していた。
しかし、これでは、皆の力で優勢に持ち込んだのに、形勢が逆転されてしまう。
一瞬でも右手が解放されれば、指輪の弓を生み出して董卓を吹き飛ばすことが出来るのに!!

消え入りそうな意識の中、悠生は董卓の注意が途切れることを切に願う。
だが、董卓の笑顔が失われるのに、時間はかからなかった。
彼の元へ滑り込んできた伝令が、悠生にとっての朗報を叫んだのだ。


「本多忠勝とその軍勢が、我らの本陣に侵入致しました!!」

「なにっ!?バカな…なぜ奴がここに…え、ええい、落ち着け!」


真実に気付いた忠勝が、自ら董卓を討とうと、神速をもって敵本陣に突撃を開始したのだ。
動揺する董卓、悠生はその隙を見て、彼の靴の下から右手を引き抜いた。
手の甲が地に擦れ、皮が裂けても気にしない。
緑色の粒子を浮かばせ、悠生は寝ころんだまま、董卓の顔めがけて光の矢を突き刺した。


「ぐわあ!?う、討たれた!!誰かわしを助けろ!!」


幻の矢は彼の顔を貫くことはなかったのだが、パニックに陥った董卓の元から抜け出すのは容易いものだった。
周泰の軍勢に守られ、悠生は一旦、董卓軍から距離を置く。
マサムネはよろめく悠生の元に駆け寄ると、心配そうに黒い瞳を瞬かせた。


「…黄悠殿…よくぞご無事で…」

「すみません…ご迷惑をおかけました…」

「…いえ…」


口数の少ない周泰も、鼻血まみれな悠生を痛ましく思ったのか、顔を歪めていた。
出血は止まったが、どうやら青あざのように痕が残ってしまったらしい。
全身がずきずきと痛んだが、命があるだけ幸いであったと思う方が良いだろう。


  

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