月下の影法師



「マサムネ、これが終わったら速攻で本陣に戻ろうね」


一人で敵の大群に突出するほど短絡的ではないし、そこまでの力も勇気も無い。
だがマサムネは悠生の無謀な行動に呆れたのか、咎めるようにぶおっと鳴く。
今更だよ、と愚痴りながら、悠生は火矢を構えると、目を細めて狙いを定め…遠くへ飛ばした。
ぎゅいん!とまるで彗星のように放たれた火矢は、砦の入り口に深く突き刺さる。
見る見るうちに炎に包まれていくのだが、その炎の色は赤でも青でもなく、翡翠と同じ緑色をしていた。


(指輪の矢を使ったからかな…?それにしては…気持ち悪い…)


ゆらゆらと揺らめく緑色の炎。
更には煙まで、白っぽい緑色をしているのだ。
違和感を覚えてしまったが、逆に董卓達も気味悪がって近寄らないかもしれない。
続けて悠生は何本も火矢を放ち、一面を緑色の火の海に変えた。

現代で同じことをすれば、補導されかねない行いである。
だがこれで、少しは時間を稼げる…、心を痛めながらもひと安心した途端、悠生の目は遠くに揺れる灯りを見つけ出した。


「来た…!!」

「…敵…」

「…遠呂智軍、か…」


何の前触れもなく背にぶつけられた二つの低い声に、悠生は心臓が止まりそうになった。
恐る恐る振り返ると、馬に跨った周泰と、地に膝を突く半蔵が、それぞれ遠くに見える松明の輝きをじっと見つめていた。
さらに、半蔵の背後で黒装束の忍びが一瞬で闇に消える。
遠呂智軍が戦場に乱入しようとしていることを、伝令として呂蒙らに伝えに行ったのだろう。


「あ、あの…どうして…」

「…尚香様の…ご意志です…」


寡黙な二人の登場など、予想してもいなかった。
周泰の話によると、「黄悠は一人にしたら絶対に無茶をするわ、落涙の弟なんだから!」と尚香に命じられ、半蔵も一緒になって後を着けていたのだと言う。
黙々と火計の準備をする姿も見られていたはずだが、きっと様子を窺っていたのだろう。
だが、この状況をなんと説明したら良いのか。
目の前は火の海、その向こう側には祭壇を目指し進軍する遠呂智軍。
まるで、全てを知った上で此処に来たかのようだ。
彼らに疑念を抱かれないよう、言い訳をしなければならないが…


 

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