月下の影法師



先も見えない闇の中、不本意な戦が始まる。
皆は本多軍目掛けてまっしぐら…だったが、悠生はあえて味方本陣の守備を申し出た。
本多忠勝は怖いので戦いたくない…と涙ながらに訴えれば、呂蒙も左近も無理強いは出来ないと悠生の望みをいとも簡単に聞き入れる。


(子供扱いは嫌なんだけど…それを利用している僕が言えたことじゃないか…)


涙目の上目遣いがすんなりと通用する時点で、成人とは見なされていないと分かるが、少しだけ悲しくなる。
子供だからこそ、ここまで生き延びることが出来たのかもしれないが、やはり今すぐにでも元服したい。
仲間の進軍を見送ったところで、悠生はこっそりと本陣を抜け出した。


「マサムネ、暗いけど頑張って走ってね?」


久しぶりに再会を果たした愛馬・マサムネに跨り、悠生は南東を目指していた。
片目を失ったマサムネには、闇の中をただ駆けるのも相当困難だろう。
妲己に負わされた傷も完全には塞がっていないのだ。
無茶をさせることが申し訳なくて、労るように背を撫でる。
するとマサムネは悠生の期待に応えるように、風を切って颯爽と地を駆け抜けた。

忠勝は、心優しいゆえ、何も知らずに遠呂智軍に利用されているだけなのだ。
彼らの常套手段、同士討ちを狙い、最大の驚異となる忠勝もろとも孫呉の将兵を滅ぼすつもりなのだろう。
絶対に、奴らの思い通りにはさせない。
何が何でも、阻止しなければ。


(この辺り、かな……?)


悠生はマサムネの手綱を引き、目を凝らして辺りを見渡した。
月明かりに頼るしかなく、はっきりと認識出来るのは数メートル程度だ。
数分散策を続けて、砦や拠点となり得る場所を見付けると、マサムネから下りた悠生は、本陣の物資置き場から拝借した火打ち石を用い、火を起こそうとした。


(早く…急がないと、)


実践したのも数回、ほとんど人真似ではあったが、かちかちと石を打ち続け、漸く火種を生む。
藁に擦りつけながら息を吹きかけて、やっとの事で火を起こした。
休む間もなく、次に、悠生は指先を輝かせて翡翠玉の弓を呼び出した。
その際、小さな光の粒が舞い上がり、松明よりも柔らかな光で悠生を手助けしてくれる。


(勝手に火をつけたりしたら…怒られそうだけど…)


この静かで人気の無い南の地には、本多軍と反乱軍が疲弊した頃を見計らって、遠呂智軍本隊が到着すると、悠生は知っていた。
董卓、そして伊達政宗である。
悠生はあえて董卓が布陣するであろう南西を目指した。
伊達政宗は…、相棒の名の由来でもあるから、無理をしてでも戦いたくなかったのだ。

そこで悠生は、冀州に到着した董卓隊の進軍を困難にするため、本陣を敷けないよう南の地に火を放つことにした。
乱暴な手段ではあるが、誰にも相談出来なかったため、仕方がない。
夷陵で三成に指示された時は、一般的な弓で火矢を放ったが、今回は幻の弓を使用することにした。
少しでも、衝撃を緩和出来れば…などと、要らぬ気遣いではあるが。


 

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