月下の影法師



悠生は捕虜ではなく、呉軍の一員として彼らに従うこととなった。
このままでは、孫策に付き従う咲良と再会するのも時間の問題である。
姉に会いたくない訳ではないのだが…、やはり、合わせる顔が無い。
その時が来たら、逃げ出してしまいそうだ。

孫呉の面々が拠点にしていると言う小牧山城に帰陣する途中、冀州の地に存在する祭壇が何者かに奪われたらしい…と、何とも曖昧な報が飛び込み、呂蒙の頭を悩ませた。
もし、祈祷場である聖地の祭壇が遠呂智軍に悪用されては後々面倒なことになるため、見過ごす訳にもいかないのだ。


「ううむ…少々遠回りになるが、やむを得まい」


最終決戦を前に、一同は冀州の地へと向かうことになった。
冀州と言えば、悠生は以前、三成と一緒に忍びを討伐するため出向いたことがある。
あの頃は、がむしゃらに弓を引くことしか出来なかった。
もう、ずっと昔のことのような気がした。
きっと、自分は少しも成長していないのだと思う。
人の命を奪う勇気なんて、いつまでたっても生まれないのだ。


荘厳さより不気味さが勝る、広大な夜の大地。
高台から見下ろせば、中央に鎮座する祭壇付近が、一際明るく見える。
新たな情報は、皆を大いに混乱させた。
祭壇を占拠したのは、遠呂智軍ではなく、あの本多忠勝だと言うのだ。
しかも本多軍は祭壇に近付こうとする動きを見せた反乱軍を、あろうことか遠呂智軍と勘違いし迎撃の構えを見せたために、戦は避けられそうにもない状況にあった。


(大坂湾の戦いの時点で嫌な予感はしていたけど、さ)


家康に過ぎたる者、とまで呼ばれた男。
その強さは呂布にも匹敵するであろう…、最も敵に回したくない人物である。
彼が何故祭壇を占拠するに至ったか…忠勝に縁のある家康や半蔵は苦虫を噛み潰したような、苦しげな顔をしていた。
そして、忠勝の娘・稲姫も…

進軍開始の指示が出されるまで、悠生もじっと闇の向こうを見据えて居たが、一人で居る悠生を気にしてか、尚香が声をかけてくれた。


「黄悠、元気?」

「あんまり…、でも、頑張ります」

「そうよね。この戦、私も乗り気ではないけれど、稲のためにも頑張るわ」


尊敬する父・忠勝が相手と知り、稲姫は初めこそ動揺したが、やはり彼女はもののふ…瞳は凛とし、もう揺らいではいない。
だが、親友である尚香は稲姫が無理をして強がっていることに気付き、身を案じているのだ。


 

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