未来への道標



ずっと、阿斗だけのつもりだったのに。
趙雲を想うと、胸が痛い。
認めたくなくて忘れようとしていたが、昔のことを思い返しているうちに、もう一度、彼に口づけをされたいと願ってしまったこともあったはずだ。
このような複雑な感情を抱いてしまったことに、申し訳ない気持ちばかりが湧き上がる。
人生を悲観していた悠生を救い、孤独という真っ暗な闇から引っ張りだしてくれたのは阿斗なのに、それなのに、他の人間に心を惹かれてしまったことが、苦しかった。

何を言われるだろうかと悠生は身構えていたが、阿斗は何を今更とでも言いたげに小首を傾げ、少し眉を寄せて、じっと悠生を見つめるだけだった。


「子龍のことではないのか?」

「え!?し、知ってたの!?」

「当たり前だ。傍に居たのだから、分からないはずが無かろう」


しれっと答えられ、悠生はこれでもかと言うほどに顔を赤くした。
自分でも気付かなかったのに、阿斗が知っているということは…、知らぬうちに、趙雲のことを熱く見つめていたのではないか。
そう思うと無性に恥ずかしくなって、悠生は両手で頬を押さえ、首を横に振った。
だが阿斗は軽蔑する訳でも咎める訳でもなく、可笑しそうに小さく笑うのだ。


「ねえ、阿斗…気持ち悪くない?僕も趙雲どのも…男なのに…」

「私は悠生も子龍も大事だ。それに、私もそなたが一番と言っておきながら星彩を選んだ。きっと、同じことであろう?」

「同じ…かな?」

「同じだ。悠生は私のものだが、私だけに固執する必要は無いのだろう。ただ、私を一番に思っていてくれれば…今はそれで良い」


冷静に、誰を好きになっても構わないのだ、と口にする阿斗の方が大人のようで、何やら情けなくなってしまった。
このような姿を見せつけられたら、誰も劉禅を暗君だと言えなくなるだろう。
誰よりも心が広く、懐の大きな人。
嫌われるかもしれない、そんな不安は最初から杞憂だったのだ。


「しかし、一つ釘を刺すが…、子龍には世継ぎが必要だ。子龍が妻を娶ることを、嫌がってはならぬぞ?」

「大丈夫、分かってるよ。そもそも僕、趙雲どのに告白するつもりは無いし…前みたいに、同じ国に住めたら…それで十分なんだよ」

「全く、そなたには欲が無いのか。まあ…そのままの関係を保てる訳があるまい。まず、子龍が悠生を放っておけるとは思えぬからな」


意味深な言葉、だが悠生は隠された真意を真に受け、恥ずかしさのあまり、困ったように唸る。
阿斗は趙雲の気持ちまで知っていたのだ。
三成に指摘されたその事実も、未だに信じられないと言うのに。
あの勇敢な男が、ちっぽけな子供に懸想している…、それだけでも、理想としていた趙雲像が崩れ、夢が壊れてしまうのだ。


 

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