未来への道標



「悠か…良き名だ。流石は子龍、悠生のことをよく理解している」

「でも、阿斗には新しい名前じゃなくて、悠生って呼んでほしいな。嫌だったら良いんだけど…」


現代では基本的に、与えられる名は一つだけだから、急に呼び名を変えられては違和感が生じる。
黄悠の名はとても気に入っているし、それに、阿斗に呼ばれるならどちらでも良いかもしれないが、この大好きな友達を"公嗣"と呼べる日が来るまで、待っていてほしいとも思った。


「悠生が望むなら、それで構わぬ。成都に戻ったらすぐ、悠生を黄忠殿の正式な養子として父上にご報告致そう。実はな、私もそなたに真っ先に伝えたいことがあったのだ。私は星彩に求婚し、承諾の返事を貰ったのだぞ」

「星彩どのに!?」

「……まあ、弱っているところを狙ったようなものだがな。しかし、私はもう関平には負けぬつもりだ」


この幼さで、阿斗は好きな人にプロポーズをしたと言うのだ。
星彩が求婚を受け入れたことより、親友が勇気を振り絞って行動を起こしたことに、悠生は驚かされた。
だが、素直に祝福してあげられないのが心苦しい。
悠生は、関平のことも大好きなのだ。
皆が傷付かずに済む道などあるはずがない。
星彩は関平の処刑の報に動揺し、今はまだ、慰めを求めて阿斗の優しい言葉に縋ったに過ぎないのだろう。

それでも、阿斗は前向きである。
星彩の心が関平に向いていることを知っていても、決して諦めたりしないのだ。


「頑張ったね、阿斗。よしよし」

「……、悠生がおなごだったら、妾にしていたのだがな」

「あはは。それも楽しそうだし良いかもね」


ふざけて頭を撫でてみたら、阿斗は唇を尖らせて冗談を言う。
女の子の一番は星彩、との意見を変えないところが阿斗の純粋さを物語っているかのようで、微笑ましい。


「僕が女の子になったら、ずっと一緒にいられるね。阿斗は側女も幸せにしてあげるんでしょ?」

「そうは言ったが…、いや、やはり私は、このままの悠生が一番だ。今のそなたに不満は無いゆえ」

「阿斗は優しいなあ…、でも、僕は…」


自分はそう言われるほど、完璧な人間ではない。
まだまだ、言っていないことが沢山あるのだ。
肩に刻まれた恐ろしい入れ墨について、そして、呪いをかけられたことも。
趙雲に、憧れ以上の感情を抱いてしまったことも。
阿斗には隠し事をしたくないから、きちんと話すつもりでいたが…いざ機会を与えられてみると、言葉に詰まってしまう。


「僕は阿斗のことが一番好きだよ。だから、阿斗に嫌われるのが、一番怖いんだ…」

「怖いというが、私が悠生を嫌うことなどあり得ぬぞ。そなたの心が変わるとは思わない。私は悠生を信じているのだ」

「でも……!ごめん。僕、阿斗以外に好きな人が出来ちゃったみたいなんだ…」


 

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