未来への道標
「ご褒美…って、このことだったんだ…」
「褒美?」
「慶次どのがね、僕にご褒美をくれるって言っていたんだ。でも、阿斗に此処で会えるなんて思わなかったよ」
「前田殿か…。悠生をかかえて訪ねてこられたときは驚いたが…」
ずっと、阿斗と劉備は軟禁され続けていたのだろう。
多大なる影響力をもたらす、人質として。
阿斗は慶次と懇意な様子で、悠生のことも知っていたから、こうして再会の場を与えてくれたのではないか。
幸い、妲己は古志城の外へ出ているため、見張りを言いくるめて突破することも出来、今が絶好の機会だったのだ。
「肩を、負傷したと聞いたが、そなた、また新たな傷を作ったのか…?」
「これ?でも、大丈夫だよ。阿斗に会えたから、痛みも吹っ飛んじゃったよ」
阿斗は悠生の首に巻かれた白い包帯を見て顔をしかめるが、悠生は心配されることも嬉しくて、頬を濡らしたまま笑った。
同時に、今日まで会話したこともなかったが、ずっと自分を気にかけてくれていた慶次に感謝をした。
「馬鹿者。前田殿から悠生の話を聞く度、私は生きた心地がしなかったのだぞ。人づてでは想像することしか叶わぬ。私は、悠生の言葉を聞きたい」
「僕も、阿斗とたくさん話がしたいな。ずっと我慢していたんだから」
話したいことなど山のようにある。
本当に、気が遠くなりそうなほどの長い間、阿斗と離れ離れだったのだから。
此処が敵の居城であることも忘れ、悠生は阿斗との久方振りの語らいを楽しもうと決めた。
阿斗は悠生の服の袖をきゅっと掴んで、握り締める。
甘えた素振りをなかなか見せない人だからこそ、そんな些細な仕草が可愛らしく思えて、悠生は微笑した。
「何から話したら良いんだろう…そうだ、黄忠どのがね、僕を養子にしてくれるって!まだちゃんと決まった訳じゃないんだけど…」
「五虎将の養子か!それは良い。随分と粋な計らいをしてくださった」
「それでね、趙雲どのが…僕にちゃんとした名前を付けてくれたんだ。"黄悠"って…本当は真っ先に阿斗に教えたかったんだけど…」
時折、ふとした瞬間に思い浮かべることはあっても、"趙雲"の名をこうして口にしたのは久し振りのことだった。
今思えば、"悠"の名を与えられたときも、趙雲の瞳は…熱く、特別な感情が込められていたような気がするのだ。
どんな気持ちで、趙雲はこの名を考えてくれたのだろうか。
彼の想いに全く気付くことが出来なかった自分は、未熟者だったのだ。
次はきっと、冷静ではいられない。
彼の目を見つめられるかも分からない。
こうして趙雲のことを思い出し、自分で話題にしておきながら照れてしまった悠生だが、阿斗は気に止めず、感心したように趙雲を褒めるのだった。
[ 351/417 ][←] [→]
[戻]
[栞を挟む]