未来への道標
自分よりも、ほんの僅かに小さかった手のひら。
ぎゅっと力を込めて握ったら、負けじと強く握り返してくれる、大切な人。
一番、誰よりも…掛け替えのない存在だった。
初めて友達になってくれた、それだけで、過酷な世を生きる理由になったのだ。
(それなのに…僕は…)
喉の奥が焼けそうなほどに熱かった。
微かな苦さを感じる痛みに、悠生は小さく呻いた。
ごめんね…、と譫言のように呟き、繰り返す。
いくら謝罪したって、届くはずがないのに。
自信を持って一番だと言えなくなった、なんて、どうしても認めたくない。
大好きな阿斗とはまた違う、愛しい人が出来てしまったことが苦しくて…悠生には耐えられなかった。
「分かっている…私は…それでもそなたのことが…」
握られた手のひらが、少しだけ大きく感じる。
悠生は涙が滲む目を数回瞬かせ、違和感の正体を探ろうとしたが、疑問はさらに深まるだけだった。
すぐそこに、ずっと求めていた、微笑む友の顔がある。
夢でも、嬉しい。
悠生はもう片方の手を伸ばし、彼の幻覚に触れたが、意外なことに柔らかな肌の感触も、その温度さえも感じられた。
「…あと…?」
「そうだ。悠生よ、私が分かるか?」
「夢…じゃ、ないの…?ねえ…本当に…?」
目尻に溜まった涙がこぼれ落ちる。
信じても、良いのだろうか。
会いたかった、ずっと、この日を待ち望んでいた。
夢でしか、会えないはずだったのだ。
大好きなのに…、距離ばかりが開いてしまって、もうずっと長い間、声も聞けなかった。
悠生は目の前のぬくもりを確かめようと、ぺたぺたと阿斗の頬に触れた。
すると阿斗は悠生が寝かされた寝台に乗り上げ、ぐっと顔を近付けてきた。
こつんと、軽く額をぶつけて、いたずらっぽく笑うのだ。
何も、変わっていない。
悲しいことが沢山あったはずなのに、阿斗の笑顔は、あの頃のままだ。
「阿斗だ…本当に、阿斗なんだねっ…僕、ずっと会いたかったんだよ…!」
「私も同じだ。悠生のことを考えなかった日など、一日とて無かった」
「ああ…無事で良かった…阿斗…」
ぎゅ、と抱き締められて、阿斗のあたたかさを感じた悠生は、耐えきれずに嗚咽を漏らし、大粒の涙を流した。
自分よりも小さかったお子様が、とても大きく感じる。
悠生の知らぬうちに、育ち盛りの阿斗はずっと立派に成長したのだろう。
何度も、名を呼んだ。
望んだものがそこにあるのだと、己に理解させるために。
[ 350/417 ][←] [→]
[戻]
[栞を挟む]