むくろの寝床



「解せぬ…、貴様は永劫生き続ける化け物だ。人とは違う、仙人とも違う。特異な存在となった我らが、世に生きていけると思うたか」

「……、」


我ら、と言った。
悠生は遠呂智の不健康そうな唇をじっと見つめる。
そして、その瞳を。
氷のように冷たく輝く、二つの宝石。
初めて遠呂智の悲しみを身近に感じた気がした。


「好きだよって、そう言ってくれる人がひとりでも居たら、僕は生きていけます」

「愚かだな。化け物を好く人が居ると思うか。我は人に追われ、仙人に自由を奪われ、闇に閉じこめられた。我の時を止められる者は存在しないからだ。弱き貴様とて同じよ。永久を生きる者は枷を背負わねばならぬ。存在自体が業となるのだ」

「そんなの…悲しいです…皆がいなくなって、ひとりぼっちになったら、寂しい…」


遠呂智は可哀想だ、自分は孤独だと信じ込んでいる。
だが、仕方がない。
悠生が想像するよりも長い時間を、遠呂智はひとりで過ごしていたのだろう。
何も見えない闇、何も聞こえない静寂。
闇に生きる自分には手の届かない太陽の輝き。

悠生はぎゅっとこぶしを握った。
遠呂智の悲しみに、触れることが辛い。
以前の自分は、カーテンの隙間から射し込む光さえ、怖かったのだ。


「それでも僕は、僕を好きになってくれた友達がいる今を生きていきたいと思いました」

「貴様に待つのは苦しみのみ。我がそうだったようにな。貴様はこれより、我と同じ道を歩むのだ」

「どうして…、悲しいことばっかり言うんですか?僕は強い遠呂智さまが好きだったのに…」


口にした悠生のその一言に、遠呂智はカッと目を見開き、傍に立てかけてあった巨大な鎌を一目散に振り下ろした。
背筋がぞっとするほどの、冷たい風が吹き付けた。
驚く間もなく、避けることが出来るはずもなく、遠呂智の鎌の先端は、悠生の首筋に触れる寸前で止まった。
その距離は僅かで、下手に動いたら、喉に食い込んでしまいそうだ。

悠生は息を呑み、想像を絶する恐怖と緊張に瞬きも出来なかったが、負けじと睨み返し、視線をそらさずにに遠呂智と向かい合った。


 

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