むくろの寝床
「怪我を治してくださって、ありがとうございました」
「何だと……?」
「え?」
エコーのかかったような低い声が、悠生の言葉を弾き返した。
まさか、怒らせてしまったのだろうか。
だが、悠生は何が遠呂智の気に障ったのかがまるで分からず、戸惑いを露わにする。
「あっはっはっ!参ったねえ、これは予想外だったんじゃないか、遠呂智よ」
「……、」
「馬鹿め!このような子供に何が分かる!」
慶次は腹を抱えて笑い出すが、遠呂智は相変わらず黙し、政宗はチッと舌打ちをする。
三者三様、しかし悠生には状況が全く理解出来ず、取り敢えず話を聞いてくれそうな慶次を見た。
何のために連れてこられたのかも分からないのだ。
思う存分笑った慶次は、ほとんど動きを見せない遠呂智の代弁者となってくれた。
「はは…、遠呂智は、あんたに恨まれていると思っていたんだよ。だがあんたは、俺達の予想を良い意味で裏切ってくれたんだ。なあ、どうして感謝の意を伝えようと思ったのか、教えてくれるかい?」
「だって、遠呂智…さまが、僕のことを助けてくれなかったら、僕は死んでいました。死ぬことが出来なくたって、今すぐに死ぬ方が嫌です。だから、感謝しています」
慶次が小さな子供を相手にするように優しく尋ねてきたため、悠生は辿々しい答え方をしてしまう。
遠呂智は悠生の考えていることを確認するため、わざわざ呼び出したのか。
恨まれていると、…それは多分、遠呂智が悠生に永劫不死の呪いをかけた件について言っているのだろう。
人としての寿命が無くなってしまう。
己の運命を憂いで、自ら命を断つことも許されず、遠呂智は誰かに殺して貰える日を待って居たはずなのだ。
だが、遠呂智よりも強い存在など無い。
だからこうして好き勝手に世を乱し、無双の強者に戦いを挑んだのではないか。
(結局、僕も…いつかは死ぬんでしょう?そのときは…好きな人の傍に…)
だが、美雪の…西王母の話によると、悠生は元より不死の身であったとも言う。
やはり、どれほど願っても、阿斗と一緒の最期は望めないのだろうか。
それでも、結果的に遠呂智の行動は、悠生のこれからを守ったことになるのだ。
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