むくろの寝床



古志城に入城して、初めての試練…、それはなんと、遠呂智からの呼び出しであった。


(遠呂智に会うのは、二回目だけど……)


だが、前回は妲己とばかり話をして、遠呂智とはほとんど言葉を交わしていなかった。
それでも、凍った瞳と冷たい表情だけは、頭に強く残っている。

現在、妲己は小牧山城へ赴き、古志城を留守にしていた。
樊城の戦いに遅参した責任を追及され、処断されることとなった孫権と、その父孫堅の最期を見届けるためだ。
だから今日は、妲己の気紛れではなく、遠呂智自らが悠生を招いたのである。
いったい、どんな話をされるのだろう、と悠生は些か緊張しながら遠呂智兵の色の悪い背を追って歩いたが、答えが出ぬままに目的地へ到着してしまった。

ぎぃ…と鈍い音と共に青銅の扉が開かれた。
その正面、真っ直ぐ前を見つめると、膝を組んで大きな椅子に座る遠呂智が、つまらなそうに訪問者を見ていた。
まるで異空間、といった雰囲気である。
両脇には、巨大な松明に揺らめく炎が青に近い色で燃え盛り、前田慶次と伊達政宗が控えていた。
従者となった二人の表情も対極的で、慶次は人好きのよさそうな笑みを浮かべていたが、政宗は悠生を睨み付け、口もへの字に曲がっている。


(ど、どうしようかな)


まずは、挨拶をするべきなのだろうか。
悠生は遠呂智から少し離れた位置で立ち止まり、暫し彼らを見上げていたが、遠呂智は頑なに口を開こうとしない。
これでは一向に話が進まないからと、見かねた慶次が口を挟んだ。


「悠生さんよ、あんた遠呂智に言いたいことは無いのかい?」

「言いたいこと…?」


慶次に促されるようにして、悠生は改めて遠呂智を見つめ、言いたいこと、について真剣に考える。
いろいろとあったはずだ、心の奥底から溢れ出しそうなほどに。
遠呂智は視線だけで他人を殺せるような、誰よりも恐ろしい男だ。
冷たい色をした両の目は瞬きもせず、悠生を貫き続ける。
だが、遠呂智は間違いなく、自分を救ってくれた。
気紛れでも暇潰しでも、遠呂智のおかげで、悠生は此処に立っていられるのは確かだ。

悠生はぎこちなく微笑み、深く頭を下げた。
遠呂智に言いたいこと、を見つけたのだ。


 

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