白の面影



もし、あの日、帰宅したばかりの咲良をゲームに誘わなければ、それ以前に、無双を知らなければ…咲良は夢の世界に入り浸ることは無かったのだろうか。
盤古と関わりがある自分だけならまだ良かった。
西王母を責めるつもりはないが、咲良には咲良の人生があったはずなのに。
巻き込んでしまった姉のことを思うと、胸が痛くてたまらなくなる。
そして、そんな姉のことを忘れて、自分のことばかり考え、幸せを手に入れようとしていた自分が腹立たしい。


「この世界に来る寸前に聞いた女の人の声は…"どうか、道標となって"と僕たちに伝えたのは、西王母さまだったんですね…」

「ええ…」

「そっか…、でも、分かって良かったです。凄く悲しい感じがして、誰だろうと思っていたから…」


西王母の声がきっかけとなり、悠生は夢の世界へと紛れ込むこととなった。
物語は、女神の囁きによって始まったのだ。

だが、彼女の声を聞くその前に、もしかしたら自分は眠っていたのではないか。
だから、咲良にお帰りを言ったのもまた、夢。
ゲームに疲れ、リビングで寝てしまった悠生を、帰宅した咲良が見つけ、寄り添って眠ったのかもしれない。


「悠生…、あなたにとっては夢かもしれないわ。だけど、皆は必死に生きているの。あなたが世界を否定したら、皆は泡のように消えて無くなってしまうわ」

「美雪さん…僕は最低です…一番悲しいのは咲良ちゃんなのに、僕は此処に居たいんです。ずっとずっと、この世界に生きていたいなんて…」

「ありがとう…それが、あなたの選ぶ道なのね。悠生…あなたは人の子の道標になるのよ。世の悲しみを消せるのはあなただけ。これからも、あなたは光となって、人の子が歩む道を照らしてあげなさい」


美雪は小刻みに震える悠生をそっと抱くと、耳元で何やら術を唱えた。
同時に、肩の…遠呂智の入れ墨が刻まれた部分がじんわりと熱くなる。
あたたかな感覚が心地良く、悠生は体から力が抜け、美雪にもたれかかってしまった。


「いつかあなたが"本当の愛"を知ったら…この入れ墨は消えるわ。きっと大丈夫よ。あなたは多くの人の子に愛されているもの…」


夢の中のはずなのに、睡魔に襲われる。
悠生は嫌々をするように首を振ったが、西王母の放つ癒しの力を直に浴び、意識を保ってなどいられなかった。
もっと、話がしたかったのに、ここでお別れだなんて。
しかも、指輪を返すのを忘れてしまったではないか!
翡翠を失った指輪は、美雪の手に返ることはなく、いつまでも悠生の胸に揺れていた。



END

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