白の面影



「美雪はね、とても喜んでいたの。そして、私も嬉しかったわ。あの年若い坊やが…いえ、太公望が、美雪を私と知っていて、利用するつもりで近付いたのだとしても、誰かに指輪を貰うなんて初めてのことだったのよ」


指輪とは、その存在で相手を戒めるものだ。
だが、それだけではなく、もっと深い意味が込められているはずだ。
太公望は、美雪が自身の定めについて何も知らないと思い込んでいた。
だから、指輪を与えることによって、己の役目を理解させようとしたのだ。
指輪によって、太公望は美雪を戒めた。
しかし美雪は、西王母は…指輪の意味を知った上で、まるで乙女のように喜んでいたというのだ。
もしかしたら美雪は…本当に、太公望のことを好きになっていたのかもしれない。


「仙人は人の子を見守り、西王母は盤古の残した世界を見守る。私は美雪としてしか人界に干渉出来ないから、あまり手助けをしてあげられなかったけれど…」

「だけど…どうして…僕だったんですか?僕や咲良ちゃんが連れて来られた理由が分かりません。1800年後の倭国って言うけど…僕たちの国では…、この世界は架空のものだから。もしこの世界に未来があるなら、もう一人、僕が居るはずでしょう?」

「それは……」


ならば何故、無双を史実とするこの世界の…現代に生きているであろう悠生と咲良を召喚しなかったのかと、疑問に思う。
これは悠生にとっての夢だが、ただの夢ではないことは既に理解している。
今、疑問を解決させ、全てを知らなければならないのだ。


「あなた、遠呂智に永劫不死の呪いをかけられたのよね。でもね、そんなことをされなくても、あなたは望めば己の時を止めることが出来たのよ。今は呪いのせいで、強制的に寿命の終わりを無くされてしまったけれど…」

「つまり、この入れ墨が無くたって、僕は…バグとして、消えずに残っていたかもしれないってことですか…?」


困惑した悠生は、納得出来る理由を求めて美雪に訴える。
阿斗のため、何としても生きるその覚悟は決めた。
だが、遠呂智が光臨せずとも、自分は普通の人間として生きることが出来なかったというのか。
致命的なバグがデリートされることなく、ずっとゲーム内に潜伏するのだ。
寿命を自在に操れる奇妙な体質だったのならば、遠呂智と一緒に死ぬことが、人間としての最期を迎える唯一の機会だったのかもしれない。


 

[ 342/417 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -