白の面影



「美雪は字といったところかしら…私の偉(いみな)は、回というのよ」

「かい…、楊回…?って、美雪さんが!?」

「そう。美雪はこの私、"楊回"の魂のほんのひとかけら。死した美雪はあるべき場所へ、この私の中へ戻ったわ。もう一度、美雪として生まれ変わるためにね」


楊回、それは中国神話に登場する女神・西王母の本名である。
悠生が呆然と立ち尽くしていると、美雪はくすくすと笑いながら美しい光を纏った。
煌めく眩しさに目を細めたが、次に見えた美雪の衣装が、布を肌に巻いただけの露出の多いものに変わっていて、悠生は思わず顔を背ける。
美雪の名の通り、美しく透き通った白い肌は、悠生を大いに惑わせた。


(美雪さんが西王母さま…!?ちょっと待ってよ…どこまでが夢なのか分からないよ!)


顔を真っ赤にしながらも、悠生はぐるぐると頭を悩ませる。
西王母はたとえようのないぐらい崇高なる存在だ。
それこそ仙人たちでさえ、彼女の姿を見ることは極端に少ないのだろう。
それほどの存在が、魂を分割してまでわざわざ悠生の迎え役を受け持つなど…


「私は常々、魂の一部を人界に紛れ込ませていたの。私の身代わりと言えば間違いではないけれど…、本来の目的は、人の子の世を、同じ視点で見守るため」

「魂の一部?美雪さんが…?」

「ええ。そのうち、とある仙人が読んだ予言の通り、世が危機に晒される瞬間が訪れた。それ以前の予言の解釈は様々だったわ。良いようにも、悪いようにも。私は彼の予言を信じ、世を救うために、予言に従い悠久なる盤古と涙を名に持つ二人の魂を捜していたの。そして、あなた達は千八百年後の倭の国に居た…だけど…」


仙人たちは初め、遠呂智を復活させる力を秘めた厄介者を保護しようと考えて行動したようだが、事実は逆であった。
美雪は、太公望ら、盤古を保護しようとした仙人によって、強制的に悠久を迎える重要な役目を担ったのだと言う。
対して落涙の迎え役は、女禍が受け持つこととなった。




 

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