白の面影



ふわりと、体が宙に浮いていた。
此処は夢の世界だ、きらきらと輝き、雪のように降る光の粒が、今にも手に掴めそうだから。


(あれ、誰だ……?)


どこまでも続く光の海の中に、人影を見た。
悠生は細かい粒子を掻き分けるようにして前へ進もうとしたが、指先に触れた丸っこい粒が緑色に発光し、驚いて立ち止まってしまう。


(この色は…知ってる…確か、美雪さんの指輪の…)


悠生は首から下げた指輪…輪に紐を通しただけのペンダントを確認するが、変化は見られない。
やはり、指輪自体の力は失われたということなのだろうが…、指輪の痕が残る悠生の指先が、同じように光り輝いていた。
そう、翡翠の色をしているのだ。


「悠生?」

「えっ!?」


強い光に目が眩んでいて、遠くに見えた影がすぐ傍にあることにも気付かなかった。
驚きはしたが、怯えたわけではない。
何故なら発せられた声は、若い女性のものだったのだ。
しかも奇妙なことに、太公望にはもう会えないと宣告されたばかりの、悠生にとって二人目の姉の声だった。


「美雪さん…?」

「やっと会えたわね、嬉しいわ」


悠生は瞳を瞬かせるが、どうやら目の前で微笑む女性は幻では無いようだ。
いや、此処は夢の中である。
指輪が返ってきたことにより、無意識下で美雪を求め、夢に見てしまっただけの話だ。
……だが、夢ならば。
何を尋ねたって構いはしないだろう?
他に聞き耳を立てる者も居やしない。
悠生はまず、久し振りに顔を合わせる義姉に、丁寧に拱手してみせる。
すると美雪は意外そうに目を見開くが、すぐに同じように礼をした。


「あの…美雪さん…僕、美雪さんとたくさん話がしたかったんです!聞きたいこともあるし…、それに、恩返しも出来ていません…」

「ふふ…その敬語は誰に躾られたの?少し見ないうちに、立派になったのね」


一瞬、何を言われたか分からなかった。
美雪は可笑しそうに、だが少し寂しそうな顔をして笑う。
指摘され、悠生は初めて、自分が自然に敬語を使えるようになったことを悟った。
そして、あれほど親しくしていた美雪のことを、すっかり忘れていた事実を知った。
だから、このような他人行儀な態度をとってしまったのだ。


「良いのよ。たくさんお話をしましょう?まずあなたが聞きたい話は、何かしら」

「……、美雪さんは、僕がこの世界に来ることをどうして知っていたんですか?太公望どのは、美雪さんが仙界に関わりのある人で…僕のことを頼んだんだって…」

「ええ。悠生は知っている?私の名を」


美雪の問いに、悠生は彼女の名を頭の中で反芻する。
美しい雪、と書いてビセツと読む。
教えられた姓は確か…、楊だったはずだ。
楊美雪、それが悠生の知る彼女の名だ。


 

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