白の面影



「黄皓どの…あの、此処は…どこですか…?」

「古志城という…今まで見たどんな城より巨大な城郭です。幾重にも巡らされた堀には炎が揺らめき、魔動砲という武器が備えられておりました。間違い無く此処が遠呂智の本拠地なのでしょう。しかし何故、妲己様は悠生殿を此処へ送ったのか…、私には見当がつきません」

「こし、城…」


古志城、それは遠呂智のために用意された、現実には存在するはずがない城だ。
知らぬ内に、このような遠いところまで連れてこられてしまったのか。
妲己は、無双の強者達に追い詰められ、最早為す術など無いはずなのだが、未だに抵抗を続けている。

悠生については、人質などとして使える存在と、一足先に古志城へ送ったのだろう。
熱に倒れた悠生の世話をさせるため、黄皓やねねも同行を許されたという。
ひとりにならなくて本当に良かった。
悠生は再び黄皓の手を握ったが、その力はあまりにも弱々しく、彼は更に顔をしかめた。


「数日、休息を取ることを許されました。悠生殿が高熱で倒れたと聞かされ、私もおねね殿も我慢ならず、抗議をして貴方の出陣を止めさせたのです」

「そんな…妲己の怒りを買ったら、黄皓どのが…」

「私のことは良いのです。貴方は早く体調を回復させてください」


悠生の心配も、黄皓はさして気に止めない。
彼は薬と言い、黒い弾薬を口に押し込んできたが、苦くて丸飲みしてしまった。
いろいろな意味で涙が溢れたが、黄皓は冷たい手拭いで涙ごと汗を拭い、眠りを促すかのように髪を梳いた。


「なんだか、おかしいですね…今更ですけど、黄皓どのに、こんなに優しくされるのは…」

「勘違いなさらないでください。私は見返りを求めているのですよ。貴方に良くしていれば、いずれ阿斗様にも評価していただける。全ては阿斗様のためです」

「あはは…、黄皓どの、やっぱり僕のこと嫌いなんですよね。でも、ちゃんと阿斗に話します。黄皓どのがずっと傍にいてくれたから、僕は寂しさに壊れることはなかったんだよって。そうしたらきっと、阿斗の傍に仕えられますね…」


黄皓は一瞬驚いたように目を瞬かせたが、閉じかけた唇を開き、小さく笑った。
最悪な出会いなど、とっくに過去の話である。
悠生は黄皓を友のような存在だと思っているし、黄皓もまた、以前のような憎しみを抱いているようには見えないが、やはり二人の関係は変わらない。
悠生は黄皓の気持ちなど、知り尽くしているつもりだった。
誰より一番に阿斗を慕い、忠誠を誓っている、だから阿斗と仲の良い悠生のことも、守ろうとしていたのだと。
それは当然、悠生の身に何かあれば阿斗が悲しむからだ。


(それでも、傍にいてくれるだけで僕は嬉しい…)



早速、薬が効いたのか、悠生は深い眠りに落ちた。
少し苦しげな様子の悠生を眺めながら、黄皓は、独り言をぽつりと呟いていた。
誰にも語らない、決して口にしないつもりだった胸の内を、吐き出すかのように。


 

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