いにしえの呪い



(趙雲どの…、僕はきっと、趙雲どののことが好きだけど、でも…僕のこと、嫌いにならないでね…)


この胸に渦巻く想いを伝えるつもりは、無いけれど。
一番に、好きになってくれなくて良いから、嫌いにならないでほしい。
だけど、出来ることなら、一緒に居たい。
以前のように、阿斗と三人で、同じような日々を過ごしていけたら…それだけで幸せだから。
悲しい現実を目の当たりにしたと言うのに、小さく笑った悠生は、関平と太公望を非常に驚かせた。


「悠生殿…拙者は、どうして良いか分かりません…!どの道が正しきか、進むべき道か、拙者には到底…!」

「関平どのは、信じた道を真っ直ぐ進んでいってください。僕は…僕はこの世界が好きです。そして、僕を好きになってくれた阿斗のために、生きていたいです」


今にも泣き出しそうな関平の頭をぽんぽんと撫でてやれば、関平はうるうると瞳を潤ませる。
まるで大きな子犬のようだった。
そのまま、むぎゅっと抱き締められて、未だ上半身が裸のままの悠生は、関平のあたたかさを間近に感じ、心地よさに目を閉じた。
いつか必ず、別れの日は訪れるものだ。
見送る回数が、人一倍多くなるだけ。
だから、大丈夫。
何度も、大丈夫だと言い聞かせた。


「軍神の子よ、貴公は悠生にとって大きな存在であろう。貴公も同じと言うのならば、これから先、その命のひとかけらでも、悠生のために使ってはくれまいか」

「ええ…拙者は未熟者ではありますが、武を磨き、蜀と悠生殿を守ってみせます!」


張り切って宣言する関平に、少し痛いぐらいに抱き締められて、悠生はううっと唸って顔をしかめた。
太公望はククッと可笑しそうに笑うと、柔らかな光の粒となって、空に消えていってしまった。
雨上がりの天に輝く優しげな輝き。
それはまるで、太公望の丸くなった心を表しているかのようだった。


「あの御方は…仙人だったのか…」

「……、」

「悠生殿もまた、太公望殿と同じく高貴なる存在なのかもしれないですね。それでも拙者は、貴方との思い出を大切にしていきたいです」

「ありがとうございます…関平どの…」


傍にいてくれたのが、関平で良かった。
悠生の過酷な運命を知っても、関平は同じ苦しみをも共有してくれるのだろう。
その優しさに縋ってはいけないと思うけど、少しぐらいは甘えたって許されるはずだ。
関平も、それを望んでくれている。

激しい濁流の勢いはまだまだ衰えることを知らないが、悠生と関平は一度、この場で別れることに決めた。
誰かに見られては、敵と内通していると疑われかねないのだ。
またね、と悠生は手を振った。
そんな子供っぽい仕草を見て、関平は優しく笑う。
次に二人が会うときは、もっと綺麗に澄んだ空が見えるはずだ。



END

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