いにしえの呪い



「これは…蛇の紋様…?まさか、遠呂智に!?」

「その通り。だがこれほどまがまがしい気を放っていたとは…悠生は遠呂智に呪をかけられたのだろう。痛みが強くなってはいないか?」

「はい…たまに眠れないぐらいに痛んだりして…」


こうして傷跡が消えても、未だ痛みを伴っている。
これが遠呂智の呪いだと言うのか。
今もまた、肩に描かれた蛇の鋭い目に睨まれる。
其処に遠呂智の冷たく悲しい表情が、ぴたりと重なった。


「遠呂智は犯した罪により、永劫不死の呪いをかけられていた。悠生よ…貴公は、その呪いを分け与えられてしまったようだ」

「……?」

「つまり、遠呂智が人間によって倒されたら貴公も死に、咲良の音により遠呂智が眠りに付けば、貴公は眠らずとも…、未来永劫生き続けることになろう」


太公望は珍しく言葉に詰まり、衝撃を受け固まる悠生を直視出来ないのか、目を伏せた。
彼の態度が、悠生に現実を知らしめる。
入れ墨に込められた、永劫不死の呪い。
遠呂智の生死が、そのまま悠生にも影響すると言うのだ。
遠呂智が死ねば悠生も死に、更には蘇った関平たちが死んでしまうし、咲良の犠牲の代わりに遠呂智が眠れば…悠生は不老不死になると言う。

今すぐ遠呂智と共に死ぬか、誰よりも長く生き続けるか…なんて、改めて問われずとも、悠生の答えは決まっていた。


(僕は死なない。僕は阿斗のために生きるんだから。阿斗の作る国を…劉禅の未来を見届けるまで、死にたくない…!)


決して死ぬことが許されず、時が過ぎようとも、ずっと世を生き続けなければならない。
それが、どれほど苦痛であろうか。
次々に友達がいなくなっても、見送ることしか出来ない。
時代が移り変わり、出会いと別れを繰り返して、寂しい想いをしなければならないのだ。
本当は、阿斗と一緒に大人になりたかった、最期のときだって…、劉禅に殉じて死にたいとさえ思っていた。
だけどそれが叶わないのなら仕方がない。
阿斗との再会を生きる糧としていた悠生には、死など認められるはずがなかった。襲いかかる恐怖を必死に打ち払い、悠生はしっかりと太公望を見詰めた。
それだけで想いが伝わったのだろう、太公望はいつもの皮肉めいた笑みではなく、感じの良い柔らかな微笑みを見せてくれた。


「そんな…人間としての生を全う出来ぬと言うのですか…!?何故悠生殿がこのような目に…」

「哀れだが、咲良には役目を果たしてもらわねばならぬ。だが、悠生よ…私は貴公を独りにはしない。仙人とていつかは死ぬが、人の子よりは長く生きよう。貴公が慕う大徳の子が生を終えた暁には、貴公を仙界に迎えるつもりだ」

「僕も、仙界に…、」


…彼らは、こんなにも親身になって、心配してくれている。
本心から望んだ訳でもないのに、長くを生きることとなってしまった悠生に、寂しさを感じさせないように。
だが、今はまだ…、孤独な未来については考えられない。
悠生の中にあるのは、大好きな阿斗のために生きる未来だ。
そして…、いつも心の奥を熱く焦がす、趙雲のことを思った。


 

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