いにしえの呪い



「一つ。久遠劫の旋律を奏でた者、咲良は即座に故郷に返さなければならない。悠生よ、貴公も生まれ育ったというその国へだ。無理をしてこの世に留まらせれば、咲良は一日もせず死に至るだろう」

「死んじゃうなんて…!そのこと、咲良ちゃんは知っているんですか?咲良ちゃんだって此処で居場所を見付けたはずなのに、いきなり、そんなこと…」

「勿論。だが咲良は己の運命を受け入れ、笛を奏でることを承諾した」


唐突に、姉の命に関わる現実を突きつけられて、悠生の顔はより青ざめる。
遠呂智を封印するほどの旋律を奏でるためには、それ相応のリスクを背負わなければなかったのだ。
咲良を死なせないためには故郷へ返すしか術が無いと言うが、悠生にとっての蜀が新たな故郷となったのと同じく、咲良もまた、孫呉に永住する気ではなかったのだろうか。
だが、この世界に残ってみすみす死なせるよりは、故郷に帰ってでも生きていてほしい、悠生はそう思うが、咲良自身がどう考えているかは分からない。


「貴公とて、咲良と同じ立場にあれば同じ道を選ぶのではないか?」

「咲良ちゃんにも…守りたい人が…いたから…?」


たった一人の我慢で、多くの人が幸せになれる。
私の未来が失われても、皆や悠生が幸せなら私も幸せだから…、と咲良の泣きそうな声が聴こえてくるようだった。
咲良が我慢をすることで、傷付く人だっているはずなのに。


「二つ目は…、貴公に関することだ。悠生よ、肩を見せたまえ」

「肩、ですか?あの…遠呂智の…?でも、あんまり見せたくない…です…」

「では身ぐるみを剥がせてもらうが?」


良からぬ言葉で脅迫され、悠生は慌てて服を脱ぎ始める。
どこもかしこも水に濡れてぺたりと貼り付いているため、上半身裸になるのも一苦労だった。
先程からずっと、寒くて凍えそうだというのに。
それに…、あんな不気味な入れ墨を、太公望はともかく、関平に見られたくない。

いつかは阿斗にも…彼に隠し事はしたくないから、全てを打ち明ける日が来るのだろう。
その時、阿斗は気持ち悪いと思わず、受け入れてくれるだろうか。
悠生は阿斗を信じているが、不安が全く無い訳ではないのだ。
阿斗に嫌われたら…生きていけない。
遠呂智によって命を救われ、生かされた自分に、価値など見いだせなくなる。
悠生は寒さに震える手で包帯を解くが、現れた入れ墨を見て、関平は目を丸くした。


 

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