いにしえの呪い



「…漸く、あるべき場所へ戻ったようだな」

「っ!何者だ!?」


悠生には聞き知った声が響くが、関平は突如として響いた男の声に、鋭い目で周囲を警戒する。
そして姿を現した仙人は…、太公望だった。
うっすらと発光する太公望の肢体を見れば、誰もが人間とは違う存在だと気付くだろう。
関平は悠生を庇おうと前に出るが、彼は先程武器を手放してしまったのだった。
太公望は必死な関平の姿を見てふふんと鼻で笑うのだ、これには悠生も黙っていられなかった。


「関平どの、大丈夫ですよ。太公望どのは僕の…あの…友達のような人で…」

「ほう、私を友と呼んだのは貴公が初めてだ。全く…貴公は酔狂な変わり者だな」


呆れたように、だが太公望は不快感を露わにはせず、皮肉っぽく笑うだけだった。
ただの知り合い、と言うだけでは関平を安心させられないと思ったのだが、それでも関平は悠生の言葉が信じられないのか、数回、目を瞬かせて太公望を見た。


「貴公が独りになる機会を待っていたのだが…、致し方ない。その軍神の子は無害と見做そう」

「太公望どの…、もしかしてこの…美雪さんの、指輪の話をしに来たんですか?」

「やはり気になるかな?では、順を追って話すとしようか」


太公望は悠生の手にある指輪を見る。
どこか懐かしそうに、目を細めて。
美雪さんのことを、思いだしているの?
二人の関係がどういったものか、悠生はよく知っている訳ではないが、太公望の瞳はどことなく優しげに見えた。


「前にも話したが、この地で軍神の子が死した際、美雪の力が込められた翡翠玉は、悠生…貴公の中に取り込まれていたのだ」

「この指の痕…太公望どのは戒めの痣って言いましたけど…」

「結果的に、美雪は死して尚、貴公の傍にあると言うことだ。媒介が貴公の元へ戻ったため、一時的に光を発したのだろう。ゆえに、最早その指輪に力は無い、だが決して紛失してはならぬぞ。それは貴公の元にあるべきなのだ」


美雪の翡翠玉が悠生の身体に取り込まれたからこそ、悠生は幻影の弓矢を扱えるようになったのだ。
しかし、美雪の力とは言うが、彼女はいったい何者なのだろうか。
美雪は仙界に縁の深い人物である、と太公望は語ったが、それがどういう意味なのかは未だに分からない。

あの優しい女性の本当を、悠生は知らないのだ。
仙人ではなく人間に近い存在であることは確かだが、完全な人間とも断言出来ないようだ。
可能ならば、また話がしたいと思う。
お礼だって言いたいし、世話をしてくれた恩返しもしたい。
美雪は死んでしまったけれど、彼女もまた、この世に蘇っているのだとしたら。


 

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