いにしえの呪い



息が出来ない、苦しい、
凍えそうなほどに寒いというのに、唇だけは燃えるように熱かった。
胸が強く圧迫され続け、悠生はある瞬間に意識を覚醒させる。


「げほっ!うっ…うえ…」

「悠生殿!良かった…、無理せず吐き出してください。もう、大丈夫です…」


すぐ傍で、優しげな関平の声がした。
肺にまで取り込まれた水に噎せ返る悠生を抱き起こし、関平は懸命に背を撫で続けていた。
悠生は痙攣するかのように身体を震わせて、目の前の関平の胸にすがりつく。
全ての水を吐き出せば、漸く落ち着いて呼吸が出来るようになった。
苦しさで涙が滲んだ視界に、安心したように微笑む関平が映る。
本当に関平が生きている、己の生死より、何よりも彼の存在を間近に感じられたことが嬉しくて、悠生は瞳を潤ませた。

寒さに震え続ける悠生をあたためようと、関平は強く抱き締めてくれた。
彼も自分も、全身びしょ濡れで、背後にはごうごうと濁流が音を立てている。


「思ったよりも流されてしまったようですね…拙者、こうして生きているのが不思議なぐらいです」

「関平どの…僕を、助けてくれたんですか?」

「ええ。貴方の呼吸は止まり、心の臓も動いておらず、更には命の危機を知らせるかのように、全身が透過してしまったのです!一時はどうなることかと思いましたが、延命措置の効果があったようですね」


体が透過した、という不可思議な現象より(バグである自分が改めて気にすることでもない)、延命措置、と言う言葉が引っかかった悠生は、未だ熱を孕んだ唇の温度に気が付いた。
まさか…、とは思うが、悠生を死の淵から呼び戻し、嬉しそうに笑う関平に真実を問うことは出来なかった。


(人工呼吸…!!関平どのは、僕のためにしてくれたんだけど…)


何が起こるかも分からない戦場で臨機応変に対処出来るようにと、関平はいろいろな処置法を心得ていたらしい。
何故自分は男ばかりに唇を奪われるのかと、ショックを受けている場合ではない。

関平は流れに足を取られ溺れた悠生を救うため、果敢にも濁流に飛び込んだのだ。
武器を捨て、水門を奪うという命令も後回しにして、無我夢中に、激流に呑まれた悠生を追い掛けた。
命懸けで助けてもらったのだから、まずは心から礼を言わなくては。


「関平どの、ありがとうございました。僕、関平どのが居なかったら、きっと死んでいましたね」

「いえ。当然のことをしたまでです。それに、拙者は貴方に謝らなければなりません。悠生殿の想いを裏切ってしまった…、貴方の願いを叶えることなく、拙者は一度、死んだのですから」

「……、でも、また会えました。だから、もう良いんです」


 

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