悲壮なる残像



(だ、駄目だよ、本当のことを知られたら殺される!)


あの鋭い爪に裂かれたらと思うと、体の奥底から震えが走る。
しかし、既に砦内は敵…織田軍が侵入しており、張コウは敵将の相手に追われ、いちいち部下の確認をする暇など無さそうだった。
敵兵を全く寄せ付けず、まるで舞い踊るかのように戦う張コウは、確かに美しい。
冷たい雨に濡れた姿も、不思議ときらめいて見えるのだ。
当然、呑気に見取れている暇もない。
魏軍の配下であると見なされた悠生に攻撃を仕掛ける織田軍兵から、身を守らなくてはならなくなった。
今だけと言ってどちらかに味方しても、後々面倒なことになりそうだ。

悠生は指先を光らせて矢を何本も出現させると、それを敵兵の足元に連続して放ち、足場を崩していく。
光と風を纏う矢は風弾となり、その衝撃で宙に泥を巻き上げる。
張コウに言わせれば、美しくない戦い方かもしれないが、こうして悠生は敵兵とその攻撃を寄せ付けず、身を守ることが出来るのだ。


「そこの貴方、張り切るのは構いませんが、泥を飛ばすのはおやめなさい!」

「えっ」


ひたすら矢を射続けていた悠生に声を投げかけたのは、張コウ本人であった。
狙いを地に定めていたためか、ぬかるむ泥も同時に飛び散るため、張コウは不快で仕方がなかったようだ。

しかし、彼は本当に身なりばかりを気にしている訳ではあるまい。
美しさとは、その戦い方や戦に臨む心のことではないのか。
実際に目には見えないけれど、悠生が乱世の中に見いだすことが出来た、絆だとか。


「はっ…貴方は…!?もしや姉川の……よく顔をお見せなさい、さあ!!」

「ちょ、張コウさま…?」

「ああ、まさに美の再来!このようなところで出逢えるとは…!」


まさか、嘘がばれてしまったのだろうか。
このような子供は我が軍には居ません、ときっぱり断言されるかと思ったのだが、張コウのその発言は違うような気がする。
誰かと勘違いされているのではないかと思いながらも、顔色を変え、じわじわとにじりよる張コウに危機感を持った悠生は後ずさるが、そこへ第三者が乱入する。
張コウに向けて重い一太刀を喰らわせた青年の姿に、悠生は息を呑み、目を見開かせた。


「吹っ飛べえ!」


記憶と何も変わらない、いや、その心は、より強く成長したのであろう。
悠生の知らない勇ましい顔をする彼は、恩人である信長を慕い、目の前の敵に喰らいつく。
その人は悠生にとって大切な…友達だったのだ。


(ああ…関平どのだ…!)


叶わぬと分かっていて交わした約束も、別れ際の微笑みだって、忘れはしない。
久方振りに目にした関平の元気な姿に、悠生は息が詰まりそうになった。
無念に打ちひしがれ、戦場に散ったはずの関平が、こうして再び、同じ地に立っているのだから。
嬉しいのか悲しいのか分からないが、気を抜けば、泣いてしまいそうだった。


「何としても、水門を奪ってみせる!」


困ったように笑う関平ばかり見ていたから、一段と男らしくなった彼の姿に少し違和感を持つ。
悠生に詰め寄っていた張コウは切り替えが早く、ひらりと攻撃を交わすが、先に倒れるのはきっと、張コウの方だろう。
持ち合わせた体力や腕力で言えば、圧倒的に関平が勝っているのだ。
張コウがこのまま押され続けたら、早くも水門が奪われてしまう。


 

[ 328/417 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -