最も美しい絆



「大丈夫、三成は人の女の子を取ったりしないよ。なんたって、あたしの自慢の息子なんだから!」

「…それは、本当か?」

「勿論だよ!だからね、今はあの娘の願う通りに行動すべきじゃないかい?」


呂布の紅い瞳が、貂蝉や三成の消えた関の先を見た。
ねねの説得に応じた呂布は今、何を思っているのだろう。
曹操に処刑されたとき、彼が思ったのは、己の武を認めぬ世の無情と、愛しい貂蝉のことだったはずなのだ。
貂蝉を残していくなんて、呂布にしてみれば、自分が死ぬより辛かったかもしれない。

最早必要あるまいと悠生は弓を消し、小走りでねねの傍に走った。
ねねは相変わらず微笑んでいて、静かに呂布を見守っている。


「……貂蝉の友が咲良でなければ、俺は悠生も石田三成も殺していただろう。女、貴様もだ」

「その咲良って娘が、悠生のお姉ちゃんなんだね。妲己が自由になる前に、どうにか咲良を救い出せないものかね」

「ふん、貂蝉が傍に居れば問題は無い。俺は内から咲良への脅威を取り除く。悠生、貴様もこれまで通りに振る舞え」


呂布の眼力に怯え、悠生は縮こまってはいと頷いた。
いけない子だね、と即座にねねが咎めるが、呂布も流石に聞き入れようとはしなかった。

脱走した貂蝉は、反乱軍に救われ逃げ延びた。
呂布も必死に追ったが、あと一歩のところで取り逃がしてしまった…、これが真実となる。
誰も、貂蝉と呂布が裏で通じていたとは考えないだろう。


(僕もこれから、遠呂智軍として孫策さまの軍と戦うことがあれば、咲良ちゃんに手紙を渡せるかもしれないんだけど…まだ…顔を合わせる自信が無いな…)


悠生の脳裏に、"生路を抜け出しなさい…"という詩の一文がよみがえる。
とても美しい歌だと思っていた。
長い長い乱世を悲しい戦を生き抜いた先にある幸せを祝福し、傷付いた心を癒してくれる…そんな歌だ。

咲良の笛が、生路を奏でる時…それは、悠生が愛した物語が一時期な終わりを向かえる時だ。
しかし、平和を取り戻したその先に何が待つか、なんて…今はまだ考えることも出来ないが、すぐに決断をしなければならなくなるだろう。
ただ、その時は咲良を巻き込んではいけないと、何としても自分がどうにかしなければ、と思っている。
悠生は誰にも言えない大きな不安を抱えたまま、ぼうっと空を見上げていた。



END

[ 324/417 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -