最も美しい絆



「お願いします、貂蝉どの…、今僕が言えることは、これだけです」

「承りましたわ。必ず、お伝えしましょう」


また、機会があることを願う。
次こそは、想いを伝えそびれることの無いように…、手紙を書いて、持ち歩こうと思った。
こうして手紙に頼ろうとしているのは、咲良に直接会う勇気が無いから、ということはあえて考えないようにした。


「話は終わりか。見ろ、呂布はもうすぐ其処だ。張遼の奮戦も虚しかったな」

「こら三成!そういうことを言うものじゃないよ!とにかく、三成は貂蝉と逃げなさい。此処はあたしと悠生で何とかするよ」

「おねね様と悠生に何とか出来るんですか?…頑張るのは良いのですが、悠生に怪我だけはさせぬようお願いします。おねね様も、くれぐれも無茶をせぬように…」


つっけんどんな三成だが、言葉の端々に密かな優しさが垣間見える。
ねねは嬉しそうに微笑むと、関を抜けて行く三成と貂蝉の背を見送って、苦無を構えた。

赤兎馬に跨った呂布が、物凄い勢いで突進してくるのが遠くに見える。
これだけ離れていても、向かってくる殺気は耐えがたいものだ。
こうなっては、もう誰にも止められない。
悠生も逃げ出したくなったが、ねねは本気で戦うつもりのようだ。
だがこれでは、同士討ちになってしまう。
貂蝉の考えが皆に知られてしまったら、呂布の立場まで危うくなるのではないか。


「いくよ!ねね忍法!」


ぼわっ、とねねの周りに白い煙が纏わりつき、彼女の姿は忽然と消えた。
次の瞬間、ねねは呂布の真上に現れる。
大量の苦無の雨を降らせるも、呂布はものともせずに弾き返し、いとも簡単にねねを吹き飛ばした。
しかし身軽なねねは慌てることもなくくるりと宙返りをし、乾いた音を立て着地をする。
悠生は見ているだけだったが、いつでもねねの援護が出来るよう、幻影の弓を構えていた。


「あの娘は本気だよ!どうして信じてあげないんだい!」

「茶番は終わりだ!俺は石田三成を滅ぼす!!貂蝉は俺のものだ!!」

「そうだよ、女は信じた殿方のものでありたいと願うんだ。だけど、信じてもらえなければ不安にもなる。あの娘の心が、信じられないのかい?」


激昂する呂布を諭そうとする、ねねの目は優しかった。
愛した人と結ばれるなんてことが珍しい時代に、ねねは周囲の反対を押し切り、自らの意志で秀吉と結ばれた。
貂蝉もまた、呂布を愛し、彼と添い遂げることを願っているのだ。

人を信じることは、怖いことかもしれない。
悠生は心が弱いから、人と接する際にも不安を覚えることが多いが、呂布は違うだろう。

まるで貂蝉の想いを代弁するかのようなねねの言葉に、呂布は少なからず衝撃を受けたらしく、初めてその動きを止めた。
すると、ねねは慈愛に満ちた笑みを浮かべ、再び呂布を見つめた。


 

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