最も美しい絆



「悠生様、何か伝言をお持ちしましょうか?咲良様に伝えたいこともおありでしょう?」

「……、お姉ちゃんに…伝えたいこと…」


貂蝉のその申し出を聞いた途端、悠生は一瞬にして咲良への思いが溢れだしてきた。
姉に伝えたいことなど、数え切れないほど存在する。
僕が傍に居なくても悲しまないで、幸せに生きてほしい…。
それでも、姉の心を裏切った自分が、再会を望むことは出来なかった。
だから、この想いは決して伝えてはならない。

他に言いたいことと言えば…、どうにも伝える手段が見つからなかった大切なことだ。
人間達、無双の者に任せておけば良い、なんて今更言えなくなってしまった。
咲良も悠生も、この世界に深く関わりすぎてしまったのだ。
だから、悠生はバグの介入を許した。
どうせなら、こんな日のために手紙を書いておけば良かった。


「"ひかるもの"と言う言葉がある…その詩は咲良ちゃんも知っているものなんです。久遠劫の旋律は、"生路"だと教えてあげてださい」

「"生路"……ですか?」

「そして、メイズ(迷路)…と付け加えてもらいたいです。詩と、詩の意味、倭国と三国の言葉の響き…全部を理解して、生路を奏でてほしい、そう、伝えてください」


孫策が唄い伝えた小春への子守歌、それが、久遠劫の旋律と呼ばれる遠呂智を封印するための歌であった。
以前、小春が奏でた笛の音を聴いた時に、悠生は旋律がよく聞き知ったものだと気付いたのだ。
それこそが生路という題の歌である。
ただこの場合、悠生の予測ではあるが、副題が"CIRCUIT"とされたものではないように思えた。


(生路の、MAZE…、そっちは、中国語と日本語が使われているんだ)


回路、とは人々が辿る道筋のこと。
迷路とは則ち、道に迷うこと。
此処は三國無双と戦国無双の融合した特異な世界である。
生路こそが、辿るべき道筋を見失った人々を導く歌。
ならば当然、咲良が奏でるべき旋律は、二つの国の言葉が使われた、MAZEと名付けられた方の一曲であろう。

しかし、詳しく旋律について伝えようとも、悠生にはひとつ不安が残っていた。
子守歌は、全てを理解せねば効果が無いのだ。


(咲良ちゃん…歌詞の意訳は知っていても、中国語って読めないだろうな…)


普段から、中国語に触れているならともかくも。
よく学校を休んでいた悠生は暇を持て余し、辞書を開いていちいち読みや意味を調べる機会もあった。
だが咲良は、耳が良く音楽が得意だとは言え、メロディの音は拾えても、中国語の発音まで拾えるわけではない。
今更悔やんでも仕方がないことではあるが、やはり初めに手紙を書き、丁寧に説明するべきだったのだ。


 

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