最も美しい絆



「悠生、おねね様まで…この女を追って来たのですか?」

「三成!そんな顔しない!女の子を守ろうと頑張るのは偉いけど、どうしてこんな騒ぎになっているんだい?」

「そう言われましても…存じません。偶々通りかかった所にこの女が居たので保護したまでです。遠呂智に抗うならば、救わぬ訳にもいかないでしょう」


怪訝そうにねねを見る三成の傍らには、錘を手にした美しい舞姫・貂蝉が居た。
三成らに庇われながら関を抜けてきたのだろうが、貂蝉も自ら武器を持ち、遠呂智軍の追っ手と戦っていたようだ。
ならば、やはり本気で逃げ出してきたのか?
突然現れた忍びの集団に、彼女もまた表情を強ばらせていたが、その忍びを率いるねねに悪意が無いことを悟ると、少し安心したように見える。
ねねに向かって軽く会釈した貂蝉は、次に悠生の方を向き、正面から視線を合わせた。


「悠生様は、奉先様と共にいらしたのですね」

「はい…、でも僕は、貂蝉どのに聞きたいことがあって此処に来ました」


此処で悠長に話している時間は無い。
張遼が呂布を引き留めているとは言え、人間離れした武力を持つ呂布を相手にいつまで時間稼ぎが出来るかも分からないのだ。


「今日の呂布どのは、何だか変なんです。今は張遼どのと戦っているけど、それまではずっと冷静で、貂蝉どのが離反したにしては、落ち着きすぎているような気がして…」

「ええ、それもそのはず…。今日の私の逃亡は、事前に奉先様と話し合って決めたことなのです」


思った通りだ、いや、そうでなかったら逆に説明がつかない。
だが悠生には、その肝心な理由が分からなかった。
下手な芝居をして、わざわざ貂蝉だけを逃がす必要があったのだろうか。
三成もねねも信じられないと言った様子だが、仕方がないだろう。
貂蝉と接触した反乱軍に嫉妬し、呂布は計画を忘れ、本気で襲いかかっているのだから。


「俄かには信じられんな。貴様はあの鬼神ほど愚鈍には見えん。自らの命が狙われると分かっていて、何故そのような面倒を起こす?」

「それは…私の命よりも大切な友を守るためです。…悠生様の姉君、咲良様が孫策軍に身を寄せているとの報が、妲己の耳にも入ったようなのです」

「え……、」

「すぐにでも咲良様の御身は狙われ、このままでは捕縛も時間の問題でしょう」


何てことだ…、だが、今まで居場所が知れなかったことが奇跡と言うことか。
邪魔な奏者を葬るためにと、妲己は落涙を執拗に追っていた。
弟を囮に咲良を誘き出そうと、悠生は戦場に駆り出されていたが、世界は思うよりも広く、姉に会う機会は一度も無かった。
悠生は既に大喬から事実を聞かされたが、妲己にも知られたとなれば、…暢気に追いかけっこなどしていられない。



 

[ 320/417 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -