最も美しい絆



(あれは…張遼どのだ!)


現在は曹丕に従う猛将、張遼の姿があった。
反乱軍が一丸となって貂蝉を逃がそうと、此処で足止めをしているのだろう。
張遼は以前、呂布の最も近いところに、鬼神の傍らに生きていた。
彼が曹操に降る前のことではあるが、二人は武を通し、互いを認め合っていたはずだ。
いくら年月が過ぎ、距離が開いたとしても、その心が変わることはない…そう思いたいのだが…。

張遼、呂布の視線が交差した。
刃を交える価値がある相手であると、呂布はついに赤兎から飛び降り、張遼に鋭い眼光を向ける。



「張遼…貴様、俺と貂蝉の邪魔をしに来たのか!」

「落ち着かれよ呂布殿!私の話を…」

「黙れ!!邪魔立てする者は、全て斬り捨てる!!」


全く聞く耳を持たぬ呂布に、張遼は説得を諦め、やむを得ぬと武器を向けた。
同じ高みを目指していたはずの二人が本気でぶつかり合うのに、そう時間はかからなかった。
…だが、これこそ悠生の知る呂布だ。
素直に喜べる状況ではないが、いつもの呂布に戻ってくれて、安心したのも事実だった。

悠生は赤兎が減速したところを見計らい、漸く地に足を着けることが出来た。
初めて赤兎と視線を通わせた悠生だが、彼はたった一度顔を合わせただけの悠生のことを覚えていたようだ。
赤兎は危ないからもう一度乗れ、とでも言うように悠生にすり寄るが、そのお誘いに甘えるわけにもいかない。


「ありがとう…赤兎。でも、おまえは呂布どののところに行かなきゃ。大事な人なんでしょう?」


真剣に、諭すように告げれば、赤兎は暫し躊躇っていたが、強く悠生の頬に鼻を押しつけ、一目散に駆け出して行った。

悠生は急に、大きな不安に襲われた。
本当は、このまま赤兎と一緒に居たかったのだ。
天下の名馬が傍に居てくれたら、一人より何倍も心強かったことだろう。
だが、赤兎のためを思えば、呂布の元へ向かわせるべきだと思った。

悠生は恐怖を打ち消そうと深く息を吐き、しっかりと前を見据える。
此処は戦場…、数では此方が有利とはいえ、油断したその時点で敗北が決まる。


(呂布どののことは張遼どのに任せて…、僕は貂蝉どのを追いかけよう、かな)


今日は、そのために連れ出されたのだから。
悠生は本気で貂蝉を捕らえるつもりは無かったが、違和感の理由を突き止めなければいけないと思ったのだ。
きっと、呂布は教えてくれないから、それなら直接貂蝉に聞きに行くしかない。
だが、五関は大混乱に陥っている。
弓部隊、鉄砲部隊、騎馬隊が入り乱れる中、甲冑を身に付けている訳でもない悠生が走って突破出来るほど戦場は甘くはない。
小走りに進む悠生は時折雨のように降り懸かる流れ弾や矢を、弓を引いて矢で連続して打ち返すことでどうにか切り抜ける。
だが、人並以上の体力が無いため、長くはもたないだろう。


 

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