獣の行く道



呂布によって、すぐさま外に連れ出された悠生だが、全くもって準備をさせてくれない。
武器も持たずに戦場へ連れて行く気なのだろうか。
それに、馬も問題だ。
マサムネが生きていることを知った悠生は、新しい馬を持つつもりは全く無かった。
だから厩で馬を借りなければならないのだが、多く並ぶ馬の前で悩む悠生にじれた呂布は、引きずるようにして奥へと連れていくのだ。
自分以外眼中に無い、強引すぎる呂布に振り回され、たまったものではない。


「今すぐ城を出る。貴様は俺と相乗りだ。特別に赤兎に乗せてやる」

「え、えっ、赤兎に!?」


それこそ、予想外の申し出であった。
全身が真っ赤に染まった美しい呂布の愛馬、赤兎馬。
その能力は高く、呂布や関羽ほどの将でなければ乗りこなすことも出来ない、三国志に登場する中でもダントツの駿馬である。
しかし以前、悠生は建業城で、孫呉によって捕縛された赤兎の最期を看取ったはずだった。
すると赤兎もまた、遠呂智の光臨によって現世に蘇り、呂布と再会したのだろう。


「ふん、今回だけだからな。有り難く思え」

「はい!凄く嬉しいです!三国一の馬に乗れるなんて…」

「三国一だと?違うな、世界一だ!」


乱暴に手首を掴まれ、引っ張られたその勢いで赤兎の背に乗せられる。
久しぶり、と赤兎に伝えることも出来ず…身勝手な呂布に振り回されてばかりだ。
このような扱いばかり受けていては、簡単に骨が折れてしまいそうだ。

呂布が後ろから乗り込み、すぐに手綱を引いた。
悠生には赤兎の立派な鬣が間近に見える。
かつての主と再会した赤兎は以前と比べものにならないほど元気になり、颯爽と地を駆けている。
そんな赤兎馬に、乗せてもらえるなんて!
体は未だにぎしぎしと痛むが、もともと三国志のファンであった悠生は、出陣のために連れ出されたということも忘れてしまいそうなほどに興奮していた。


「世界一の馬に乗る俺は天下最強だ!!」


獣が吠えるように、呂布は高々と叫ぶ。
あまりもの大きな声に耳を塞ぎたくなったが、何とか我慢をする。
世界一だとか、最強だとか、呂布は何でも一番でなければ駄目なのだろうか。
だが、それが事実なのだから仕方がない。

…そう言えば、まだ何処に出陣するかも聞いていなかったのだが、今日は貂蝉を連れてこないのだろうか。
それは少し、意外なことだった。
久しい再会に、呂布は今度こそ愛しい貂蝉を手放すまいと、戦場にだって付き添わせるものだと思っていたのだが…


 

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