獣の行く道
「悠生、出陣だ。俺と来い」
「え、ええっ!?」
説明も無く首根っこを掴まれそうな勢いで、悠生はたじろぐが、以前酷い目に遭わされたはずの黄皓が、生真面目ゆえか…またも呂布に突っかかっていく。
ねねもキッと厳しい目を呂布に向けるのだ、怖いもの知らずにも程がある。
「そのような話、聞いておりませんが?正式な下知なのですか?」
「それに悠生は具合が悪いんだよ!!今日は休ませてくれないかね…」
「ごちゃごちゃと。宦官と女は黙っていろ!」
「ちょっと!!今のは聞き捨てならないよ!あんたは自分の好きな子に対しても、女だからって理由で押さえ付けるのかい!?」
宦官だからと差別された黄皓より、性別で差別されたねねは、珍しく怒りを露わにし呂布に抗議した。
いずれの時代でも、女の発言力は無いに等しい。
だが、全ての女性の上に立つことになるねねだからこそ、女だからと言われては黙っていられないのかもしれない。
しかし、呂布には全く関係の無い話だった。
腕を振りかざし、今にもねねを殴り付けようとする。
それでもねねは動じず、互いに譲らない、二人の視線が交差した。
「やめてください呂布どの!!僕、従いますから!だからっ…」
「ちっ、俺を待たせるな、クズ共が」
ねねを殴られては此方がたまらない。
彼女の肌に消えない傷が付けられでもしたら、三成だって、ねねを残したことを悔やんでしまうだろう。
悠生が必死になって叫べば、呂布は舌打ちしてねねから視線を逸らした。
じろりと悠生を睨み、早くしろと促す。
「悠生、ごめんよ…」
「大丈夫です。黄皓どのがさすってくれたから、もうどこも痛くありませんし」
「私も、悠生殿を連れて行かれることは不本意ですが…止められそうにはありませんしね。お力になれず申し訳ない限りです」
二人が謝ることは何もないのに。
悠生は大丈夫です、と笑って返すが、悲しげに俯くねねは、強がって見せてもやはり呂布の剣幕に圧倒されていたようだ。
仕方がないだろう、相手は化け物じみた最強の猛将なのだ。
そんな呂布だからこそ、悠生は彼のことが好きだったのだが。
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