獣の行く道



さらさらと髪を梳く優しい手のひら。
母にしては若い、だが姉よりは遠い、そんな女性が、悠生の伸びた髪を撫でている。
朝から悠生と黄皓の部屋を訪ねてきたねねが、髪を結んでくれると言うのだ。


「ほんと、悠生の髪は綺麗だねえ。羨ましいよ」

「で、でも、そろそろ切った方が良いかなって…こんなに伸ばしたことなんて無いですし…」

「良いんだよ!三成だって小さな頃から綺麗な髪をしていたんだから」


言っていることがよく分からず首を傾げるが、傍に居た黄皓が静かに笑うので、なんだか気恥ずかしくなった。

いつの間にか、悠生の髪は肩下よりも伸びていた。
自分ではいつまで経っても結び慣れず、黄皓が居るときは頼んで結んでもらっていたが、外ではそうもいかず、紐で適当に縛るしかなかった。
散髪屋など無く、自分でととのえるにも時間を割く余裕だって無い。
だが、この世界には長髪の男も多い。
だから慣れてしまえばどうってことないのだろうが、やはり煩わしい。


「はい、完成だよ!」

「ありがとうございます、おねねさま」

「三成はなかなか髪を触らせてくれなくてね…、まあ、あの子は自分で何でも出来ていたから、あたしの助けなんて要らなかったんだろうね」


まだ子供だった頃の三成のことを思い出しているのか、ねねは懐かしそうに目を細めている。
悠生は幼き日の三成の姿など想像することしか出来ないが、きっと大人びた性格だったのだろうと思う。


「おねね殿と石田殿は、どのようなご関係なのですか?」

「三成はあたしが我が子同然に育てた可愛い息子だよ。だから悠生は、三成の弟のようなものだね!三成はね、悠生のことを気に入っていたんだよ?それなのに…黙って居なくなるなんて…」


黄皓の質問に答えながら、ねねは少しだけ寂しそうに言った。
彼女がずっと可愛がってきた三成は今、何処にも居ない。

曹丕、そして石田三成の離反の報が飛び込んできたのは、悠生が官渡から帰還してすぐのことであるが、同時に、妲己が曹丕に捕らわれたという噂まで流れているため、遠呂智軍は混乱状態にあった。
だがそれはただの噂ではなく、妲己の居城・小田原城で彼女が捕縛されたのは事実だと思われる。
妲己に代わり、皆に指示を出しているらしい諸葛亮が、動揺を軽減するため真実を伏せているのだろう。
今のところ悠生に出陣の命令は無い。


「三成さまは…大事な友達が出来たんです。だから、傍にいて、その人のために頑張りたいんだと思います」

「曹丕のことだね?昔の三成には考えられないことだから、ほんとは素直に喜んであげたいんだけどね…まったく、心配なものは心配なんだよ!」


若々しいお母さんはご立腹だ。
三成がねねを遠呂智軍に残して行ったのは、悠生を遠呂智軍の巣に一人残すことが不安だったからだろう。
彼女の存在に救われることもきっと多い。
本当なら、一緒に連れていきたかっただろうに…、三成が口にすることは普通に考えてもあり得ないが。


 

[ 312/417 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -