さよならを唄う



「女禍さま!?具合が悪いんですか…?」

「いや、案ずることはない。だが、これが五年と限定した理由だ」

「わ…わたしに、力を授けられたから…?」

「それもあるが、元より、長く人界に干渉し続けた私に残された時間は僅かであった。とは言っても人間よりは遥かに長いがな」


はあ、と深く息を吐いた女禍は、見るからに辛そうではあったが、初めて自然な笑顔を見せてくれた。
ゲームをしていても、滅多にお目にかかれなかった優しげな微笑みだった。


「決して悪いようにはせぬ。私の力となってはくれないか、小春」

「女禍、さま……」

「悠久よ、お前は余計なことを考えず、一刻も早く落涙に旋律を伝えよ。お前の口からでなければ意味が無い」


そう言い残すと、女禍はぱあっと輝く粒子になって、夜の闇に溶けてしまった。
光の粒を掴もうとするが、いとも簡単に消えてしまう。

悠生が咲良に旋律を伝えずとも、武将達が力を合わせて困難に打ち勝つはずである。
だが、それは甘い考えだったのか。
バグが物語を狂わせたならば、正しい結末に導くためには、やはり予期せぬ存在であった悠生と咲良が動くしかないのだ。


「悠生さま…わたしはいつか…女禍さまに着いて…」

「小春さま!僕はそんなこと受け入れたくありません!陸遜さまのことはどうするの!?跡継ぎを生んだら役目が終わりって訳じゃないでしょ!?」


女禍のあんな姿を見せられたら、嫌とは言えなくなる。
だからと言って、陸遜との未来が待っていた小春の人生を、狂わせる権利など無いはずだ。

感情的になった悠生は小春の肩を掴んでしまうが、彼女は悲しげに眉をひそめるだけだった。
女禍ひとりのため、大喬や孫策、陸遜と離れ離れになる…、十歳の少女に決断させるには、あまりに残酷ではないか。


「陸遜さまが一番悲しいとき、傍にいてあげられるのは小春さまだけなのに!ひとりにしないでって…お願いしたばっかりじゃないですか…!」

「わ…わたし…どうしたら良いか分かりません…伯言さまをひとりになど、したくないのに…!」


ぽろぽろと流れる小春の涙を、どうしても止めてあげられない。
哀れな人を、ひとりにしないで。
悠生は常々、誰かが傍に居てくれたらそれだけで頑張れると思っているが…それはきっと、陸遜も同じはずなのだ。



……信長の手により官渡は落城し、大喬や小春は護衛兵に連れられ、闇に紛れて何処かへ行ってしまった。
恐らく兵達の独断だが、彼らは本気で、妲己から逃げるつもりなのだろうか。
そんなことをしたって、無駄なのに。
だが、いつか必ず孫策が助けてくれる。
それまでどうか…、生き延びてくれと願うばかりだ。

悠生はひとり、遠呂智の待つ城へと撤退する妲己の元へと戻った。
友であった小春と言葉を交わすことは、もう二度と無いのかもしれないのだと、悠生は虚しい想いを抱くばかりだった。



END

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