さよならを唄う



「夢であれ、私は何度も条件を伝えた。そして娘は受け入れた。問題があるか?」

「でも…小春さまは人間です。女禍さまのものになって、その後はどうなるんですか!?」

「私の志を継ぐ美しき仙人に育ててやるつもりだが?小春はまだ幼いが、父があの孫策だ。仙人になる資質は十分だろう?」


小春があの小覇王・孫策の娘だから?
いつからか、女禍は小春を後継者と定め、力を授ける機会をうかがっていたのだ。
小春は、母を助けたいあまりに強大な力を得てしまった。
その先のことなど考える余裕は無かった。
家族だけではない、世界との別れを突きつけられた小春の顔は真っ青となっていて、自ら要求を断ることなど出来そうにない。


「だけど…!小春さまは、孫呉に必要な人なんです…代わりがつとまる人なんて他にいません!」

「ならば悠久よ、お前の大事な落涙を仙界に連れていっても良いのか?」

「なっ!?」


仙人になる、それは、人間よりも長生きをして、空から地上を、人間たちを見守り続けるということだ。
人間とは寿命の長さが違いすぎるから、外界との接触を断たなければならないのだろう。
小春がやらないのならば、落涙に…咲良にその役目を負わせるつもりなのか。

悠生は大好きだった咲良と離れて暮らすことを心に決めていたが、それは孫呉が、姉を手厚く保護してくれたからだ。
必ず、幸せにしてくれる、そう信じさせてくれたから。
だが…仙人になってしまえば、平穏な日々は望めない。
巻き込んでしまっただけの咲良に、更なる辛い想いをさせたくなかった。


「残念ながら、落涙は奏者だ。私の一存で仙人には出来ぬ。そも、勘違いされているようだが、私は妲己のような悪女ではないのだ。本来なら今すぐ連れて行きたいところだが…、猶予を与えてやろう」

「仙女さま…、わたしは…」

「私は女禍だ。小春よ、私が待ってやれるのはおよそ五年だ。その間に、お前は女としての役目を果たせ。陸遜の子を成し、妻としての役目を果たし終えたら、迎えに行こう」


たったの、五年で。
女禍は、小春と陸遜の夫婦生活は認めたが、その先にある我が子との暮らしは、許してくれなかった。
何を言っても、撤回してはくれないのか。
何故こんな強引に事を進めようとする?

悠生は不信感を露わに女禍を睨むが、彼女は急に胸を押さえ、がくんと体勢を崩し…その場に力無くうずくまってしまった。
神々しかった輝きも、鈍く、薄れていく。
ううっと苦しげに呻くため、悠生は初めて見る女禍の姿に驚き、心臓が止まりそうになる。


 

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