さよならを唄う



「ああ、母上……、」


聖なる力を得た少女は大喬しか見ておらず、発光の衝撃に倒れた光秀には目を向けず、傷付いた母を抱き起こす。
そして、血の気を失った頬に唇を寄せ、そっと瞳を閉じた。
すると体全身から柔らかな光が溢れ、ふわりと大喬の体を包み込む。
光は大喬だけではなく、周囲の人間…敵味方を問わず全ての者に降り懸かった。

悠生にもまた、小春の生んだ光が降り注ぐ。
優しい輝きに見とれていた悠生だが、そこで漸く己の体の異変に気が付いた。
それは、聖女の光が引き起こした奇跡であった。
流石に入れ墨の痕までは消えなかったが、未だに完治していなかった肩の傷さえも、綺麗に塞がっていたのだ。


「小春さま……」


その空間に居た皆は、小春が放った強い光によって気を失っていたが、同時に、目に見えて傷を完治させていた。
意識を保っているのは、悠生だけだった。

大喬の傷を癒し、その静かな寝顔から、苦しみが取り除かれたことを見届けた小春の覚醒は解け、彼女は慣れない力を使い、ぐったりとしていた。
……いったい、何が起きたのだろうか。
本当に、小春は仙女に力を与えられ覚醒したのか?
どう声をかけて良いものか悩んだが、とりあえず名前を呼ぼうとした悠生を遮る人物が現れた。


「あ、あなたは…仙女さま…!?」


長い銀髪、神々しく輝く肢体、つり上がった勝ち気な瞳。
夢の中で小春を甘い言葉で誘惑し続けた仙女様、それは、悠生もよく知る仙人のひとりであった。


「ふっ、孫小春よ。お前の願い、確かに叶えたぞ…さあ、私と来るのだ」

「っ……」

「じょ、女禍!…さま。お願いです、小春さまを連れていかないでください!」

「ほう…お前が悠久か。確かに、男にしておくのは勿体無いほどの愛らしさだな」


それは嫌みか皮肉か、悠生を品定めするように眺め、ふふんと微笑む彼女は、立場は真逆だがどことなく妲己に似ている。
今にも小春を引っ張って行ってしまいそうな崇高なる仙人・女禍を相手に、悠生は何が出来るというのだろう。
力を与える代わりに我がものとする、それは女禍が小春に掲げた大事な公約だった。
しかし、所詮は夢の話。
無効にしてもらわなければ、小春が本当に仙界に連れて行かれてしまう。


 

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