さよならを唄う



真っ直ぐ北に向けて進めば、思ったよりも味方拠点に近い位置で、激しくぶつかりあう大喬軍と明智軍の集団が目に入った。
矢が飛び交い、あちこちに火花が散り…其処には生臭い戦場の空気が立ちこめていた。

大喬は可憐な鉄扇を手に、まるで踊るようにして敵に斬りかかる。
彼女の相手をするのは、あろうことか光秀本人だった。
光秀は大喬の素速い攻撃を全て受け止めているのだが、その表情は難しそうに歪められている。
心優しいゆえに、甘い男である。
此処は女子供も関係無い戦場だというのに、光秀は女性相手に手をあげることさえ躊躇っているのだ。


「私だって、戦えます!本気でいきますよ…!」

「…では、私も本気を出すことにしましょう」


がつん!と扇と刀が力強くぶつかり合う。
二人はぎりぎりと押し合うが、力技では圧倒的に男が優位である。
じわじわと押されつつあり大喬は、最早意地で戦っているようなものだ。
愛する人のため、生きるために戦う、大切な目的を忘れてしまえば、死はぐっと近くなると言うのに。

時間が無いと感じた悠生は、瞬時に光の弓矢を形作り、光秀に向けて狙いを定めた。
大喬の武器が弾かれたその瞬間を狙い、まずは光秀の体勢を崩さなければならない。
悠生は光秀の足下に狙いを定めていたが、刃を交える二人を引き裂くようにして現れた第三者の姿を見て、弓を持つ手が震えた。


「おねえちゃん!どうして遠呂智なんかに従ってるの!?」

「小喬……!」


鉄扇を手にした、今にも泣き出しそうな、幼い人の声。
大喬は、己によく顔が似た愛らしい妹・小喬の登場に、悲しげに顔を歪めていた。
小喬は信長に従い、無邪気にも戦場を駆け抜けてきたのだ。
だが、此処で…敵味方という状況で、姉妹が再会することになってしまうなんて、誰が予想しただろう。


「小喬、ごめんね。今はこうするしかないの…」

「そんなのって…!あたし、おねえちゃんと争うのはいやだよ…!」

「小喬殿、お退きなさい。ここは私が」


互いを想い合う姉妹が争うことを良しとしない光秀が、小喬を後ろに下がらせる。
本当は、大喬を止めたかったであろう小喬は、瞳に涙を滲ませ、泣く泣く光秀に従って前線から退いた。
いつも笑顔を絶やさない明るい少女が、これほど悲しみに満ちた顔を見せるなんて…、過酷すぎる現実に、悠生の胸も鈍く痛む。

大喬もまた、大事な妹の弱々しい姿に、最早戦う気力を失ってしまったらしい。
顔面は蒼白となり、ぶるぶると震え、今にも鉄扇を落としてしまいそうだ。
長らく小春と引き離され、孫策や親しい人物らと接点を絶たれた大喬にとって、小喬の涙は彼女の心を酷く痛めつけた。


 

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