さよならを唄う



「大喬様、敵本陣へと進軍開始されます!しかし黄悠様は、引き続き拠点を守られよとのことです」


伝令の報告を聞き、悠生はゲームの展開を思い返すが、敵本陣へと向かった大喬が最初にぶつかるのは、信長に仕える明智光秀の軍勢である。
実戦経験も豊富であろう光秀が相手では、大喬に勝利は無い。
戦う前から結果は見えている。


「母上…ああ…父上が居てくださったら…!」


心を強くする、なんて、武芸を身に付けるより難しいことかもしれない。
小春は大喬を想い、必死に母の無事を祈るが、負けたら最後、捕虜とされれば良い方だ。
光秀は好き好んで皆殺しをするような鬼では無いから、きっと命を取ることはせず、丁重に扱ってくれることだろう。
しかし激戦となれば、流れ矢に当たる可能性も増え、大喬の命も戦場に散りかねない。


「小春さま。大喬さまにはああ言われましたけど、今は、大喬さまを助けに行きたいです。その方が、小春さまを守れるような気がするから…」

「悠生さま…わたしは…」

「何があっても、拠点から出ちゃ駄目ですよ?きっと僕が、大喬さまを守りますから」


悠生は小春の傍を離れ、大喬の援護をすることに決めた。
そうでもしなければ、先に小春の心が耐えきれなくなると思ったから。
小春を守るには、拠点に敵を近づけなければ良いのだ。
大喬の手助けをし、どうにか光秀を追い返して…その間に信長が官渡城を落としてくれれば、彼女達を危険な目に遭わせなくて済む。
悠生はわざと明るい笑顔を見せ、不安げに自分を見上げる小春を残し、走って拠点を飛び出した。


(光秀を倒してしまったら、大喬さまは敵本陣に向けて更に進軍しなくちゃならないんだ…)


そのような無謀、見過ごすことは出来ない。
蜀の人間である悠生に、孫呉の未亡人の命を守る義務など無いが、心優しい大喬を見捨てたとなれば、咲良は悲しむだろうし、胸を張って阿斗の元に帰れないではないか。


 

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