さよならを唄う



「小春さま…何で…」

「あなたは…黄悠さま!?何故このような所に…母上、黄悠さまもご一緒なのですか?」

「ええ。共に戦ってくださるのですよ」


どうして此処に居るのかと聞かれても、そっくりそのまま返したい。
最後に小春と顔を合わせたのは、建業城だった。
彼女は牢獄から抜け出すのを手伝ってくれたのだ。

しかし、大喬はともかく、幼い小春はまだ、武芸を身に付けていないはずである。
もしかしたら簡単な護身術ぐらいは学んでいるかもしれないが、実戦で通用するかと考えれば…、答えは決まっている。
すると、戦う力の無い小春までが、このように危険極まりない戦に駆り出されているのだろうか。


「黄悠様、お願いがあります。どうか小春を…娘を守ってください。敵は私が迎え打ちます」

「なっ…大喬さまだけを危ない目にあわせるなんて…」

「良いのです。小春を戦場に連れてきたのは、この私なのですから…」


大喬が小春を溺愛していることは、孫策を交えた再会の瞬間を目撃した悠生もよく知っていた。
安全な場所に置いていくことも可能であった、なのにあえて戦場に連れてきたということは、大喬が何としても小春を傍に置きたかったから強引に同行させた…、そう、解釈出来るだろうか。


「実は…私と小春は、官渡に赴く寸前まで、再会を許されなかったのです」

「え…じゃあ、ずっと離れ離れで…?」

「ようやく再会が叶い、私はとても幸せなのです。ですから、私は片時も小春を離したくない…ゆえに、危険を承知で小春を戦場に連れてきました。黄悠様にはご迷惑をお掛けしますが、どうか宜しくお願い致します」


妲己は、母と娘の仲まで引き裂いたというのか。
大喬を遠呂智軍に縛り付けるために、彼女の愛娘を人質にし、孫策と敵対させ、無理矢理戦場に立たせたのだ。
愛する人と引き離されて苦しんでいる人々が、この世には大勢居る。
物語の終わりはまだ、気が遠くなるほど遠かった。
痛々しいぐらいの想いが伝わってくるような、大喬の切実な願いを受け、悠生が頷かないはずがなかった。


(信長が、早く戦を終わらせてくれるように、祈るしか…)


戦国時代の憧れの武将に願うも、悠生の想いが届くかは分からない。
ついに、無謀な戦が始まってしまった。
大喬は妲己からの進軍の合図を待っていて、今は拠点の防衛に当たっている。
悠生は拠点の中に待機し、小春の護衛役として彼女の傍に居た。
夷陵で尚香に借りたまま返していなかった可愛らしい弓を小春に見せたりして、重苦しい空気を和ませようと試みる。
小春は笑ってくれたが、その笑顔はすぐに萎んでしまった。


 

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