さよならを唄う



こうして三成と別れることとなった悠生だが、休む間もなく妲己に連れられ官渡の地に赴いていた。
遠呂智軍の重要拠点である官渡だが、現在遠呂智軍の主力部隊は武田・上杉軍を討伐するため、長篠の地に向かっている。
手薄となった官渡に、行き場を無くした悠生を急遽加えることにしたのだ。

しかし、ここで物語通りの展開を見せる。
悠生が官渡に訪れた翌日、織田信長の軍勢が攻めてきたのだ。
信玄や謙信を囮に使ったのは明白である。
戦力差は歴然、今にも圧倒的に不利な戦が始まろうと言うのに、官渡城内の妲己は余裕そうな笑みを崩さない。


「悠生さん、あなた三成さんに何をしたのよ?ものすごーく怒っていたわよ?まるで鬼みたい!」

「……、」

「ふふ、だけどあなたは使えるわ。あなたは前線に出て存分に戦ってちょうだい!落涙さんがなかなか捕まらないから、私ちょっと気分が悪いの」


…これは、まずい。
夷陵で再会した孫尚香の話によると、咲良は信長の元に身を寄せているはずなのだ。
もし悠生が遠呂智軍に居ると姉に知られたら、彼女はきっと悠生を妲己から引き離そうと姿を現すだろう。
咲良が捕らわれてしまったら、子守歌を奏でる者が居なくなってしまう。
どうにか、妲己の目の届かないところで、姉と接触出来れば良いのだが、そう簡単にはいかない。


「妲己さん、南西拠点の防備は整いました。これから私も其方に向かおうと思います」

「ああっ、大喬さん。ちょうど良いわ、この子、あなたの軍に加えてくれる?南西拠点は敵本陣に真っ直ぐ進軍出来るから好都合!少し戦力を増やしてあげるわ」

「こちらのお方は…あ…」


妲己に報告をしに来たのは、荒んだ戦場には不似合いな美しい女性、大喬だった。
大喬と直接会話をしたことはなかったが、彼女は悠生をひと目見て、すぐに落涙の弟だと悟ったようだ。
悠生が小さく会釈すると、大喬は柔らかく微笑んで見せる。

確かに南西拠点は敵本陣の真南に位置しているため、最も進軍し易い砦かもしれない。
だが、か弱い大喬の力では、敵本陣に辿り着く前に部隊が壊滅しかねない。
妲己は大喬に期待はしていないだろう。
他人を慈しむ心が無いから、奮戦の果てに、どんな目にあったって構わないと思っているのだ。


「悠生さん?手を抜いたら殺すわよ。あなたの大切な阿斗さんを!」

「…分かっています。精一杯頑張ります」

「あははっ!本当あなたって馬鹿正直ね!」


咲良はその笛の腕を危惧され、妲己に狙われている…そんなこと、姉が一番よく分かっているはずなのだ。
姉が身を隠して続けてくれることを、弟から目を背けてくれることを…悠生は必死に祈るのだった。


 

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