さよならを唄う
「ごめんなさい…僕には、阿斗がいます。阿斗を置いては行けません」
「…ああ、悠生ならそう答えると思っていた。俺は貴様の一途で真っ直ぐなところが気に入っていたのだからな」
三成は柔らかく言うが、その瞳には少しだけ、悲しみの色が見えた。
もしかしたら三成も、寂しいと思ってくれているのだろうか?
短い付き合いだったというのに、彼は別れを惜しんでくれている。
勿論、自分も同じではあるが。
「では、貴様に離隊を命じる」
「お別れ…ですか…?」
「ああ。妲己には、臆病な貴様の無能さをこれでもかと訴えておこう。それで良いな?」
やはりあのガキは使いものにならなかった、ゆえに軍を追い出すことにした。
心にも無い理由を付け、三成は自分が離反した際、悠生にまで飛び火が移らないよう、早くも準備を始めたのだ。
二人の間に芽生えた絆を隠し、妲己の目を欺こうとしている。
あっさりとして、冷たいように見えるが、これが三成の優しさである。
悠生は小さく頷き、ぎこちなくだが微笑んで見せた。
今は笑える気分ではないが、きっと今日が最後になってしまう、だから、笑顔でお別れしたかった。
「そのような顔をするな。生きていれば必ず、再び会える」
「はい。僕は三成さまのこと、大好きでした」
「フン、それは俺ではなく、趙雲に言うべきではないか?」
同じことを趙雲には言えぬだろう、と面白そうに茶化されてしまい、悠生はかっと顔を赤くした。
三成はそんな悠生を見て、笑っていた。
次に会うときは、敵となるかもしれない。
それでも、この心は変わらないはずなのだと、信じていたい。
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