さよならを唄う



団欒の場を抜け出し、早々と廊下を歩く三成を、悠生は小走りで追い掛ける。
口頭で簡単な報告はしたが、それを書面に纏めて妲己に提出しなければならないそうだ。
どんな手伝いをさせられるのか、と考えているうちに、三成の部屋へ到着した。


「三成さま?」


三成は風呂敷包みを置くと、何を命じる訳でもなく、鋭い瞳で悠生を睨んだのだ。
唐突な三成の行動が理解出来ず、悠生は不安に陥ってしまう。
何か、怒らせるようなことをしただろうか?
それでも悠生は三成から目は逸らさなかったが、暫く両者の間には沈黙が続いた。
先に静寂を打ち破ったのは、三成だった。


「戦力は整った。曹丕は直に離反するだろう」

「えっ…」

「俺も曹丕に着いていくつもりだ。奴が一人では、妲己には勝てん」


まさか、そんな重要な機密事項を話されるとは思いもしなかった。
その日が来たら、驚いて見せようと思っていたが、悠生は本気で三成の発言に驚いていた。
三成の部下となって間もないこんな子供に、間違っても大事な相談をするはずが無いと思い込んでいたのだ。


「俺に着いて来い、悠生」

「三成さま!?」

「俺は、貴様を置いていきたくない」


更なる追い討ちをかけられてしまう。
着いて来いと、命令口調ではあるが、そのようなことを言われては心が揺らいでしまうではないか。
だが、置いていきたくないというのは、私情を挟んだ三成の願いだ。

遠呂智から離反する…、それは、これ以上、咲良を危険に晒さなくて済むということだ。
妲己より先に、魏軍に落涙を保護してもらえば、彼女に子守歌の内容を伝え、遠呂智を眠らせることも可能だろう。


(だけど、僕には阿斗が…!阿斗のことは、裏切れないよ…)


三成のことは好きだ。
共に戦ううちに、彼の優しい心や気高さを知った。
一緒に、と言ってくれたことはとても嬉しい。
自分を必要としてくれる人に差し出された手を、思い切り掴んでしまいたい。

だが…、ここで自分が三成に従い離反すれば、妲己は迷わず阿斗に手をかけるだろう。
そして、すっかり世話焼きとなった黄皓にまで、危害が及ぶ可能性が高い。


 

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