彼方の導き手



「え、と…僕は…」

「あっしも、いろいろと考えたよ。内通者が居て、策が外部に漏れた可能性もあるだろう。だけどお前さんの反応を見て確信したよ。お前さんには他人に話せない秘密がある、そうだね?」

「う……、」


黙ってしまえば逆に疑わしさが増すだろうに…、分かっていてもすっかり動揺しきっている悠生は否定も肯定も出来なかった。
言葉で追い詰められ、悠生は恐る恐るホウ統を見るが、意外にも彼の目は細められていて、柔らかな雰囲気さえ感じさせた。


「お前さんは、何のために…誰のためにこんなところへ来たんだい?」

「命令だったから…でも、今日は、三成さまと曹丕さまのために頑張りました。大切な人達を、誰も死なせたくなかったんです」

「どうやらお前さんは、他人のために頑張れる子のようだ。ならあっしは、今日お前さんには出会わなかったことにしようかね」


思わぬ言葉に、悠生は目を丸くした。
ホウ統の口元を覆っていた厚い布に皺がよるぐらい、彼は大きな笑い声をあげていた。


「見逃してくださるんですか?本当に…?」

「でも、あっしはお前さんの顔を忘れないよ。会えて嬉しいなんて言ってくれたの、劉備殿とお前さんだけなんだ。また、違う形で出会いたいものだね」

「ホウ統どの……」


胸がぎゅっと締め付けられるようだった。
笑みを浮かべるホウ統の心からの言葉が悲しく感じられ、でも、嬉しかった。
ホウ統は…きっと、信じてくれたのだ。
悠生の心と、その言葉を偽り無きものとして受け入れた。

夏侯惇達の敗北により、此処で曹丕軍に降ることなるホウ統だが…、彼はこの先もずっと曹丕に、そして曹魏に力を貸すことになる。
悠生にはあれこれと想像しか出来ないが、曹魏は何処よりも居心地が良かったのではないか。
己の才と存在を認めてくれた人物になら、ホウ統は精一杯応えようとするのだ。
悠生が、自分を好きになってくれた阿斗の傍で、ずっとずっと生きてたいと思えたように。


(ありがとう…ホウ統どの…)


貴方に会えて嬉しい、それは、見た目で判断され不遇な生涯をおくったホウ統にとって、何よりも喜ばしい言葉だったのかもしれない。

悠生も微笑み、ホウ統に向けて深々と頭を下げた。
悠生がこうして笑えるようになったのは、無双の…この世界に出会えたおかげである。
だから、何があっても嫌いになったりはない。
無双の一部である遠呂智のことだって、きっと嫌いにはなれないのだ。


夷陵の戦いは、夏侯惇達を懐柔させる形で幕を閉じた。
この後、曹丕はついに妲己に反旗を翻す。
三成も曹丕の行動を見届けるためにと、彼の背を追いかけることになる。
ゆっくりと、物語が進んでいく。
今はまだ、悠生の記憶しているままに。



END

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