彼方の導き手



「……、ホウ統どのは僕を殺すんですか…?せっかく会えて…嬉しかったのに…、」

「おやおや、あっしに会いたかったとでも言うのかい?おかしな子だよ」

「だって、ホウ統どのは劉備さまにお仕えしていたんでしょう?僕も劉備さまの国に暮らしていたから…」


蜀の人間…、しかも名軍師と名高い鳳雛に会えたのだから、本来なら喜ぶべきことである。
こうして捕縛されたからには、ただでは返してもらえないだろう。
だが、悠生は自分の体に縄がかけられていないことに疑問を持った。
しかも此処にはホウ統が一人だけで、他に見張りが居る訳でも無い。
自分はこれからどうなるのかと不安げな顔をする悠生を見て、ホウ統はおかしそうに笑っていた。


「そんな顔をしなさんな。殺しはしないよ、遠呂智を倒すために曹魏を復活させようとしている曹丕殿の思惑に、乗ろうかと思っていたからね」

「そう、ですか…」

「あっしはお前さんに聞きたいことがあったんだよ。いったいどうやって策を見破ったんだい?」


え、と悠生は口を開けたまま固まってしまう。
そのようなことを問われては、逆に問いただしてしまいたくなるではないか。
どうしてホウ統は、悠生が策を見破った人物だと気付くことが出来たのだろうか。
この暗闇の中、どんなに視力が良くとも、向こう岸に立つ人間の顔を確認出来るはずがないのに。


「まずお前さん達は、橋を組み立てるための照明に目を付けたね?其処が一際明るい、怪しいってね。でもね、実際あっしは怪しまれることを想定し、同じような松明を何本も用意していたんだよ。なのにお前さんは、的確に策を仕掛けようとした場所を突き止めた」

「そ、そうでしたか?他の明かりは小さかったような…」

「思い込みじゃないかねぇ。兎に角、お前さんの火計によって策は失敗だよ。あっしが何故お前さんだと分かったかって、陣に飛び込んできた、輝く矢を放つ人物を兵に突き止めさせたら、夏侯淵殿を相手に活躍していたお前さんに辿り着いたんだよ」


次々と事実を言い当てられ、悠生は言い訳も出来なくなってしまった。
たった一本の矢から策を阻止した人物を突き止めてしまうなどと、やはりホウ統はただ者ではない。
こんなにも遠くに居たのに、ホウ統には全て見透かされていた気分だ。

本当に、橋を架けられると分かっていた。
だからこそ、悠生は誰よりも早く策を阻止しようと行動出来たのだ。
だが、隠していた事実を他人に知られたくはなかった。
生まれ育った世界が違う、それは誰にも…、阿斗と趙雲には少しだけ話したが、秘密にしておくべき事柄なのだ。


 

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