彼方の導き手



「悠生、見るだよ!あそこに夏侯惇と、曹丕様と三成も居るぞぉ!おいらも加勢するだよ!」

「きょ、許チョどの…待って…」


遠くに夏侯惇の姿を見つけた許チョは目をぱあっと輝かせ、一目散に敵陣へと乗り込んでいく。
本当に、目の前しか見えていないのだ。
悠生は苦笑し、自分も許チョの後を追おうとしたが、突然、茂みの中から投げつけられた塊を見て、慌てて手綱を引いた。


(な、何だこれ…、まさか、爆弾!?)


ころころと転がるそれは、明らかに悠生目掛けて投げられたものだった。
立ち止まっていては余計に危ないと、馬の腹を蹴る悠生だが、それよりも早く正体不明の物体が破裂し、あろうことかもくもくと白い煙を噴き出した。
爆発物ではなく、ただの煙幕であったことに少しは安心するも、許チョと離れた隙を狙われたことは間違い無い。
粉っぽい煙を吸わぬよう口を覆うが、視界が白い世界に覆われたことに馬が興奮して暴れ、振り落とされてしまう。


「くっ…!」


地面に叩き付けられる痛みに耐えようと身を堅くした悠生だが、何故か衝撃は感じず…直撃は免れたようだ。
それは誰かに、受け止められたからである。
敵か味方かも分からぬ存在に心を許せるはずもなく、視界が利かぬまま弓を引こうとした悠生だが、まともに煙を吸ったためか、急に頭がくらくらしてくる。
気持ち悪いぐらいの眠気に襲われると、悠生はギリギリと唇を噛み締め、襲い来る睡魔と必死に戦うが、ついに力尽きて瞳を閉ざしてしまった。




─────




…どのぐらい、眠っていたのだろうか。
だが、あまり長い時間は過ぎていないような気がする。
頬をぺちぺちと叩かれたことにより、悠生はうう…とか細く唸り、何とか目を覚ました。
そして、ぼやけた視界に飛び込んできた男の顔に、心臓が止まりそうになる。


「ほ…ほっホウ統…!?」

「はいよ、あっしはホウ統さ。だけどその驚きようは傷付くねぇ」


実に特徴的な話し方をする軍師・ホウ統が、地面に横たわっていた悠生を上から見下ろしていた。
生前は劉備に仕えていたホウ統だが、彼は現在、夏侯惇の軍に加わっていたはずである。
つまり悠生は、敵の罠にかかってまんまと捕らえられてしまったということだ。


 

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