新しい一日




永遠、は有り得ないものだけれど。
ずっと、は誓えないけれど、少しでも応えたい。
手を差し伸べてくれた優しい阿斗。
その小さな手を、強く握り返せるぐらいの、勇気があればいいのに。




成都、其処は蜀の本拠地である。
城内の一角に存在する、阿斗に与えられているという邸は、それはそれは豪華なものだった。

案内をしてやる、と阿斗にぐいぐいと手を引っ張られ、邸内を見て回った悠生だが、彼の身分の高さを思い知り、ただの民でしかない自分が本当に一緒に暮らして良いものかと…複雑な気持ちを抱いてしまう。
個室を貰い、数人の女官を付けられ、あまりもの待遇の良さに申し訳なくなる。
阿斗は笑って、気にすることはないと言ってくれたが、環境の変化に慣れるまで時間がかかりそうだ。

邸内を一周した頃、女官が阿斗を迎えに来た。
どうやら、お勉強の時間らしい。
阿斗は悠生を連れて帰るために、うつけをやめると趙雲と秘密の約束を交わしたのだというのだ。


「悠生よ。私はこれから兵法を学びに行かねばならぬ。その後は武術か、そして…」

「え、行っちゃうの…?」

「寂しいだろうが、そのような顔をするな。子龍を呼んである。私が戻るまで、心して勉学に励むことだな!案ずるな、後々存分に構ってやろう」


態度は大きいが、それらは全て、阿斗の精一杯の愛情表現なのだろうと思う。
しかし悠生は、阿斗が不在という状況が恐ろしく感じられた。
寂しいかと言われれば寂しいし、知らない場所に一人残されて、不安なのは確かである。
しかも、勉学に励めと言うのだ、趙雲と。
いろいろと言いたいことはあったが、反論する前に、阿斗の背中は遠くなっていた。


「悠生殿、お待たせしたな」

「趙雲…?」

「……、」


聞き慣れた声と、見慣れた姿が一致しないため、違和感を覚えて首を傾げてしまう。
当たり前だが、武将だからと言い、いつも鎧に身を包んでいる訳ではないのだ。

悠生は趙雲の顔を見上げ、きっと物凄く嫌そうな表情をしてしまったのだろう、彼はただただ苦笑するばかりだ。
あの三国志のヒーロー・趙子龍が先生になるだなんて、本当に夢を見ているかのようで…何と言って良いか分からなかった。

悠生にあてがわれた自室は、阿斗の部屋から少し離れた場所に位置する。
初めは此処よりもっと広い個室を与えられそうになったのだが、落ち着かないからと必死に訴え、離れではあるが、それ相応の部屋に決まった。

そもそも、自分はこの城で、どのような立場にあるのだろうか。
体力的な問題もあり、兵士に志願することはまず、かなわない。
だからと言い、中国語の読み書きが出来ないため文官にもなれない。
まだ子供だから、阿斗の遊び相手…で許されるかもしれないが、それではいずれ邪魔者扱いされてしまう。

様々な思いを巡らせ、いっそのこと趙雲に悩みを打ち明けてみようと決めた悠生は、緊張しながらも自ら、趙雲に声をかけたのだが、彼の反応は思いも寄らぬものだった。


 

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