彼方の導き手



夜の闇を映した川を挟み、炎上する向こう岸を横目に、これからのことを思案していた三成だったが、その時、悠生はこちらに向かってくる鈍い足音を聞いた。
その足音の正体は、三成の代わりにと本陣の守備を任せていたはずの許チョだった。


「許チョ!貴様、何故此処に…」

「ごめんなぁ…三成、おいらやっぱりじっとしていられないだよ…」


説教をされたかのようにしょんぼりとしながら、三成を見つめる許チョは子供みたいだ。
三成は盛大な溜め息を漏らし、頭を抱える。
夏侯惇や夏侯淵は旧知の仲であり、彼らが同じ戦場に居るというのに、黙っていなければならなかったことが、許チョには辛かったのだろう。


「全く…、今から俺達は本陣に撤退する。許チョは孫呉の姫と、本多の娘を援護しに行け」

「分かっただよ!ありがとなぁ」

「ま、待ってください!」


三成と許チョの間で話がまとまったと言うのに、間を割って口を挟んだ悠生を、三成はぎろりと睨み付けた。
その眼光の鋭さに狼狽えるが、意を決して発言する。
許チョと理由は違えども、悠生もまた、本陣へ戻りたくはなかったのだ。


「あの、僕も、許チョどのと一緒に行きたいです…駄目ですか…?」

「貴様、此度は本陣待機を命じたはずだが?何度命令を無視するつもりだ」

「でも、尚香さまはお姉ちゃんの友達で…!阿斗にとっても、大切な人だから…」


三成の苛立ちが手に取るように分かり、悠生はびくびくとするばかりだったが、目線は逸らさなかった。
本陣で何もせずに待つよりも、姫でありながら前線で戦う尚香の傍にいて、少しでも力になれたらと思ったのだ。
確かに怪我はしたくないし、危険は避けたいというのが本音である。
だが、尚香を慕っている阿斗も、彼女を傷付けたくはないと…、きっと悠生と同じことを望んでいるはずだ。


「今日こそは許さんぞ。貴様は目を離すと無茶をする。その身勝手な行動が、迷惑なのだよ」

「三成さま…!」

「三成、あんまり意地悪するなよぉ。大丈夫だ、おいらが一緒に行くから、心配することはねぇだよ」


三成は許チョの言葉にぴくりと反応する。
意地悪などではない、三成は心から悠生の身を案じている。
共に戦ってきた悠生には分かるのだ。
だが、ここはどうしても譲れない。

三成は訝しげな目を向けるが、にこにこと笑う許チョに三成の本意は理解出来ないだろう。
そもそも、許チョに護衛に徹しろと言うのは酷な話である。
思うままに戦わせる方がずっと、持ち合わせた力を発揮することが出来るはずだ。
そんな許チョに悠生を任せることを、今更ながら不安に思っているのではないか。


 

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