星照らす夜に



(三成さまは…やっぱり凄い…)


悠生は改めて思ったのだ、石田三成という人間は、もっともっと評価されるべき人物なのだと。
人並み以上に優れた能力が無ければ、秀吉のお気に入りにはなれないだろう。
三成は他人に興味が無いと見せかけて、実は影ながら悠生のことをじっくりと観察し、傍で見守っていてくれたのだ。
しかし、三成は不器用なところもあり、その性格ゆえに、嫌みな人間だと思われてしまう…不憫な男だ。

悠生は、三成に期待されていることを感じ取っていた。
もしかしたら勝手な想像かもしれないが、じわりと胸が熱くなった。
嬉しく思わないはずがないだろう。
三成は生きにくい子だなんて言われるが、それは悠生もずっと同じだった。
同じ、不器用だから…分かってくれる。
とても、不思議な心地だった。
いつもの自分なら、すぐ後ろ向きになって、諦めてしまうのに。

きっとこれが、三成の持ち合わせる最大の魅力なのだろう。
この人の力になりたいと思わせてしまう。
彼の期待に精一杯、応えなければと。


「皆、準備は良いな!!構え!」


悠生を先頭にし、背後に三成の火矢部隊が一列に並び、弓を構えている。
矢の切っ先で静かに揺らめく紅色の炎。
それぞれの炎は小さいが、全てが風の中でひとつになったら…、威力は何十倍にも跳ね上がるだろう。


「今だ!矢を放て!」


三成の合図に従い、悠生は煌めく緑色の矢を天に向けて放った。
ぎゅいんっと響き渡った鋭い音は、矢が勢いよく飛んだ証だ。
すぐに凄まじい風を生み、それに多数の火矢が巻き込まれ、巨大な炎の旋風となった矢が弧を描き、敵陣へ飛び込んでいった。
まるで一筋の流星のように美しく、そして隕石が落下するかのように激しい。

すると、どうだろう。
ホウ統が策に使用するために用意していたであろう橋の木材に火矢が命中したのか、向こう岸には急激に白い煙が立ちこめ、火柱が立った。
素早く燃え広がった炎は辺り一面を赤く染め…、炎の海と化した。
落下と同時に巻き起こった旋風のせいで、火の巡りが速くなったようなのだ。
無謀だと、三成の策を一時でも疑った兵達も、まさかこれほど鮮やかに成功すると思っていなかったのか、未だ弓を構えたまま呆然としている。

三成はにやりと笑った。
誰も思い付かないような斬新な方法で、ホウ統の工作計画を無事に阻止することが出来たのだ。


「ご苦労。悠生の助力が無ければ、俺は策が成されるのをただ見ているだけだっただろうな」

「そんなことはありません。三成さまが…僕のことを見ていてくださったから…、これは、三成さまのおかげです!」

「この乱世の中、よくも無邪気でいられるものだな。だが…貴様のことは、愚かとは思わぬよ。どうやら俺は、悠生のことを気に入っているようなのだ」


らしくない言葉を口にし、そして真っ直ぐに悠生を見ながら微笑んだ三成は、何か眩しいものを見るようにすっと目を細めた。
その表情は、きらきらとしてとても美しい。
これほどに自然な三成の笑みは、彼に出会ってから初めて見るもので…嬉しくなって、悠生もまた、応えるようにして笑った。



END

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